令和七年度 大学入学共通テスト試作問題 公共、政治・経済 第6問 問6
問題
これまでの学習の成果を踏まえて、生徒Zは、生徒X、生徒Yとともに、日本での移民・難民の期限を定めない受入れについて授業で討論した。この討論は異なる視点から3人が意見を出し合い、それぞれの意見を組み合わせて一つの政策的な含意をもつ提言を導くことがねらいであった。討論を通じて、まとめられたXたちによる次のア~ウの提言を読み、後の(1)、(2)の問いに答えよ。
ア 日本への移民・難民の受入れを考える前に、現状の根本的な問題解決として、そもそも日本は移民・難民の発生する地域の安定や開発に貢献すべきであるだろうし、そうした支援を行う国際機関への資金援助も今以上に積極的に行うべきだ。
イ 経済の活力が失われる日本の将来を考慮するならば、移民・難民の受入れとは考えなければならない選択肢の一つだけれども、移住してくる人たちに日本の社会や歴史、文化を深く理解してもらう教育制度に加えて、在留資格や国籍取得の要件を厳格にすべきだ。
ウ 多様な人材を日本に受け入れることで、雇用する会社はそれらの人材を事業や取引に活かせるだろうから、日本は移住者の雇用をどのように促進できて、その人たちといかに接点を作れるか、受入れ後の制度について既に移住している人たちと一緒に考えるべきだ。
(1)まず3人の生徒が導いたア〜ウの提言のうちから任意に一つ選び、アを選択する場合には①、イを選択する場合には②、ウを選択する場合には③のいずれかをマークせよ。なお、(1)で①~③のいずれを選んでも、(2)の問いについては、それぞれに対応する適当な選択肢がある。
(2)(1)で選択した提言は、討論を踏まえ意見をまとめていく中で、2人の生徒の意見を調整して組み合わせたものである。どの2人の意見を組み合わせた提言だと考えられるか。次のa〜cの意見のうちから適当なものを二つ選び、その組合せとして最も適当なものを、後の〜のうちから一つ選べ。
a【生徒Xの意見】
今の日本は移民なしに少子高齢化社会を支えられないだろうし、移民労働者によって日本経済も活性化すると思うな。難民についても、欧米諸国との受入れの国際比較に関する資料6にあったように、日本は他の国と比べて受入れ数が少ないんだし、積極的に受け入れることでもっと国際社会に貢献しても良いと思う。日本国憲法にもあるように、人権はすべての人に保障されているもので、誰かが困っているんだったら答えは受入れ以外ないと思う。
b【生徒Yの意見】
移住してくる人たちが日本で働き口をみつけ、家族を呼び寄せて、ある地域に移民が急に増えると、生活習慣や文化の違いでその地域の住民と摩擦が起こりそうだな。資料4のEU離脱支持理由にもあったけど、移民を手放しで受け入れた後では遅くて、受入れ前に対策を講じるのが一番大切だと思う。難民も多く発生しているアフガニスタンやシリアは言葉や宗教の面で日本と違うだろうから、暮らしにくいと思うよ。
c【生徒Zの意見】
資料2で人口減少が顕著だった東ヨーロッパの国をみて思ったんだけど、移民・難民として出ていかれたら、その国の将来を担う人材も減りそう。それに他国の就労先で低賃金・重労働の仕事を押し付けられるのも心配だ。私たちが互いの意見を尊重するのと同様に、いろんな言語や宗教の人たちの考え方や意思を尊重してあげたいな。ただ実際に多くの人が国境を越えて移動している中、国が移住を希望する人を制限したり妨げたりすることは避けるべきことだと思う。
①aとb ②aとc ③bとc
解説
正解は以下の三種
(1)が① ⇒ (2)は③
(1)が② ⇒ (2)は①
(1)が③ ⇒ (2)は②
・問題文を読んで分かる通り、完全に国語の問題である
⇒提言ア~ウは意見a~cの内二つを組み合わせて作られているから、その組み合わせを見つけろ、という問題。ここまで国語っぽい問題も珍しいというぐらい国語の問題
・簡単にまとめると、abcの意見は以下のようなものである
a:難民・移民を受け入れなければ日本経済は死にます! 難民・移民の受け入れは正義! ジャスティス! ラブ&ピース!!
⇒難民・移民受け入れ積極的賛成
b:難民・移民を無制限に受け入れたらとんでもねぇ事になるぞ。文化も習俗も違うんだから。受け入れてから後悔しても遅いぞ
⇒難民・移民受け入れ積極的反対
c:(難民・移民受け入れ反対とか言うと悪人扱いされるな~…どうしよっかな~…)移民反対って訳じゃないけど、移民って必ずしもいい事ばっかりじゃないよね?
⇒難民・移民受け入れ消極的反対
・以上を受けて考えていこう
ア 日本への移民・難民の受入れを考える前に、現状の根本的な問題解決として、そもそも日本は移民・難民の発生する地域の安定や開発に貢献すべきであるだろうし、そうした支援を行う国際機関への資金援助も今以上に積極的に行うべきだ。
・アは、難民・移民の受け入れそのものには言及していない
・結果的に、難民・移民を受け入れなくてよくなるように誘導している
・そもそも難民・移民が発生しなければ、日本側も受け入れるかどうか考えなくてよいのである
⇒と考えると、ねっこに難民・移民受け入れ積極的反対がありつつも、批判されないように、消極的反対意見を取り入れるという経緯があったと考えられる
・よって、アはbとcの意見によって構成されていると考えられる
イ 経済の活力が失われる日本の将来を考慮するならば、移民・難民の受入れとは考えなければならない選択肢の一つだけれども、移住してくる人たちに日本の社会や歴史、文化を深く理解してもらう教育制度に加えて、在留資格や国籍取得の要件を厳格にすべきだ。
・イは、その前半に於いて、難民・移民受け入れを拡大すべきだという立場である
・これはaの意見に見られる内容である
⇒日本経済にとって難民・移民は有益、むしろ受け入れなかったら日本経済は死にます…みたいな話はaの意見にのみ見られる
・一方で、後半には、同化政策や「ならず者の排除」と言える政策が盛り込まれている
・これは、bの意見に見られる内容である
⇒それこそ文化がどうこう、みたいな話はbの意見にのみ見られる
・よって、イはaとbの意見によって構成されていると考えられる
ウ 多様な人材を日本に受け入れることで、雇用する会社はそれらの人材を事業や取引に活かせるだろうから、日本は移住者の雇用をどのように促進できて、その人たちといかに接点を作れるか、受入れ後の制度について既に移住している人たちと一緒に考えるべきだ。
・ウはその前半で、難民・移民を受け入れると経済的に発展する、という旨の事を言っている
・これはaの意見に見られるものである
⇒日本経済にとって移民は有益、みたいな話はaの意見にのみ見られる
・ただ後半が、何を言いたいのかどうもはっきりしない
・この消極性は、cに特徴的である
・よって、ウはaとcの意見によって構成されていると考えられる