令和五年度 大学入学共通テスト追試験 政治・経済 第2問 問2
問題
生徒Xは、基本的人権の保障の歴史を調べた。次の記述a〜dはそれぞれ、アメリカ独立宣言、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)、フランス人権宣言(人および市民の権利宣言)、ワイマール憲法の一節のうちのいずれかである(なお、和訳の一部表記を改めた箇所やふりがなを振った箇所がある)。これらの記述を成立した年の古いものから順に並べたとき、3番目にくるものとして正しいものを、後の①〜④のうちから一つ選べ。
a 人は、自由、かつ、権利において平等なものとして生まれ、生存する。社会的区別は、共同の利益にもとづくものでなければ、設けられない。
b いかなる児童も、その私生活、家族、住居もしくは通信に対して恣意(しい)的にもしくは不法に干渉されまたは名誉および信用を不法に攻撃されない。
c 経済生活の秩序は、すべての人に、人たるに値する生存を保障することをめざす正義の諸原則に適合するものでなければならない。
d すべての人は平等に造(つく)られ、造物主によって一定の奪うことのできない権利を与えられ、その中には生命、自由および幸福の追求が含まれる。
①a ②b ③c ④d
#人権の拡大 #良問
解説
正解:③
復習用資料:政治分野第一章/人権の拡大
・(人権から見た)(政治経済の範囲内での)歴史の概略を主に聞いてきている問題
・一方で、勉強内容があやふやだと全然解けない問題でもある。よく考えられた良問である
・まず、各人権文書を適切に並べ替える
時代 | 主要な事件 | 今回問われた人権文書 |
---|---|---|
革命の時代 | アメリカ独立戦争 フランス革命 |
アメリカ独立宣言 フランス人権宣言 |
資本の時代 | 明治維新 | |
帝国の時代 | 日清戦争 日露戦争 |
|
世界大戦期 | ヴァイマル憲法 | |
冷戦期 | 子どもの権利条約 |
※今回の問題には関係ないが、アメリカ独立戦争とフランス革命なら前者が先。そもそもフランス革命の原因の一つが、「ただでさえフランス王国の国家財政大赤字なのに、アメリカ独立戦争にカネをドバドバ突っ込んだ」である
・よって、三番目はヴァイマル憲法である
・続いて、各人権文書の特徴を考えてみよう
人権文書 | 特徴 |
---|---|
アメリカ独立宣言 | 人間には、平等、自由、幸福追求といった基本的人権があるとし、それ故植民地は本国の暴政に抵抗し独立する、とする。即ち、人権保障の観点からアメリカは独立する、という論理構造になっている |
フランス人権宣言 | ルソーの平等思想とロックの抵抗権の思想の影響を受けている。「自由権と平等権の確認」「人権保障と権力分立の主張」「所有権の不可侵性の確認」という特徴がある |
ヴァイマル憲法 | 史上初めて社会権を明記した憲法 |
子どもの権利条約 | 子供の権利を守る趣旨の条約。子供を「保護すべき対象」でなく「権利行使の主体」とする |
・ここまできちんと勉強していれば、後は、消去法でもそうでなくても解ける
・まず消去法で考えみよう
b いかなる児童も、その私生活、家族、住居もしくは通信に対して恣意(しい)的にもしくは不法に干渉されまたは名誉および信用を不法に攻撃されない。
・明らかに子どもの権利条約である
・と言うかこれで子どもの権利条約じゃなかったら流石に悪問である
a 人は、自由、かつ、権利において平等なものとして生まれ、生存する。社会的区別は、共同の利益にもとづくものでなければ、設けられない。
d すべての人は平等に造(つく)られ、造物主によって一定の奪うことのできない権利を与えられ、その中には生命、自由および幸福の追求が含まれる。
・基本的人権、特に自由権と平等権が強調されている
・つまり、自由権や平等権を強調していたアメリカ独立宣言とフランス人権宣言である
⇒この問題を解く上では「どっちかがどっちか」でいいのだが、一応正解を言うと、dがアメリカ独立宣言、aがフランス人権宣言である。dの非常にキリスト教的な言い草は、アメリカ独立宣言でも特に有名な一節である
・ここまで来れば、消去法でcがヴァイマル憲法だと分かる
・一方、「他は知らんけどcがヴァイマル憲法だな?」で解く事も可能である
・ヴァイマル憲法と言えば、世界で初めて社会権を記した憲法として有名である
・ところで、社会権は戦後の日本でも保障されている
日本国憲法第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
・例えば↑は、社会権の中でもいわゆる生存権について記したものとして、非常に有名である
・そして労働基準法は、この生存権にも基づいて作られた側面がある
労働基準法第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
・cの文章と、非常によく似た条文である
・つまるところcは社会権について述べた文章であり、という事は、cがヴァイマル憲法だと考えられる
・よってcが正解、という形で解いてもよい