令和六年度 大学入学共通テスト本試験 政治・経済 第1問 問5
問題
生徒Xと生徒Yは、職業選択に関心をもち、雇用や失業などの労働市場に関する情報を集めた。XとYは、次の資料1〜3をみながら話し合っている。後の会話文中の空欄( ア )〜( ウ )に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑧のうちから一つ選べ。
X:講師の先生が、「2010年代後半は労働市場が売り手市場になっていて、就職がしやすくなっていた」と話していたのが気になって調べてみたよ。
Y:資料1をみると、たしかにそうなっていたことがわかるね。でも、2014年以降は求人数が求職者数を( ア )いるのに完全失業率がゼロにならなかったのは、何が原因なのかな。
X:資料2をみると、「事務的職業」は労働力の需要量が( イ )いて、「輸送・機械運転の職業」は労働力の供給量が( イ )いるから、職種によるミスマッチが起こっているといえるね。
Y:なるほど資料3をみるとどういうことがわかるのかな。
X:資料3は、2002年から2006年の間の完全失業率が高くなった原因がわかるものだよ。資料1の2002年から2006年の間は、2010年から2014年の間と比べると、有効求人倍率が同じ程度で推移しているのに完全失業率が上回っているから、何が原因か調べてみたんだ。「労働経済白書」では、資料3が掲載されていて、( ウ )の労働力の需要量が( イ )いることが就職を難しくしていると分析されていたんだ。つまり、雇用形態別の労働力の需給関係の違いも、失業者数の増減を左右する原因になる可能性があるということだね。
① ア 上回って イ 過剰になって ウ フルタイム
② ア 上回って イ 過剰になって ウ パートタイム
③ ア 上回って イ 不足して ウ フルタイム
④ ア 上回って イ 不足して ウ パートタイム
⑤ ア 下回って イ 過剰になって ウ フルタイム
⑥ ア 下回って イ 過剰になって ウ パートタイム
⑦ ア 下回って イ 不足して ウ フルタイム
⑧ ア 下回って イ 不足して ウ パートタイム
解説
正解:③
・多少、経済分野の背景知識が必要だが、基本的には国語の問題
2014年以降は求人数が求職者数を( ア )いるのに完全失業率がゼロにならなかったのは、何が原因なのかな
・求人は「働きたい人募集」、求職者が「働かせてください」である
・普通に考えると、求人<求職者であれば失業者(無職)は増える
・逆に言えば、普通、求人>求職者であれば失業者(無職)は減る
・今回は「何故か失業率がゼロにならない」という話である
・つまり、「失業者が減ってる筈なのにゼロにならないんだな…」という話だと考えられる
・となると、表1を見るまでもなく求人>求職者という状態だと判断できる
・よって、( ア )は「上回って」であり、正解は①~④という事になる
資料2をみると、「事務的職業」は労働力の需要量が( イ )いて、「輸送・機械運転の職業」は労働力の供給量が( イ )いるから、職種によるミスマッチが起こっているといえるね。
・ここ、受験生を引っ掛けようとしているなかなか邪悪な部分である
・と言うのは、一般的な高校生が認識している「倍率」と、「有効求人倍率」は意味が違うのだ
・大学受験等で「倍率が高い」と言う場合、これは、定員に対して希望者が多い状況を指す
例1:10人が合格する学校を20人が受験した場合、倍率は2倍である
例2:10人が合格する学校を100人が受験した場合、倍率は10倍である
・つまるところ、倍率が高い大学は、偏差値とは別の意味で難関校という訳である
・その考え方で資料2の有効求人倍率を見ると、事務職は0.3倍から0.5倍
・一方、輸送・機械運転職の有効求人倍率は1.6倍から2.5倍程度となっている
・故に、事務職は誰でもなれる、輸送・機械運転職はなるのが難しい、と思える
・よって、( イ )は「過剰になって」だと思える
⇒事務職は労働力の需要量が過剰になっている…つまり、「事務職で働いてくれませんか!」という募集の数は多いが、これに応募する人が少ない、だと思える
⇒輸送・機械運転職は労働力の供給量が過剰になっている…つまり、「輸送・機械運転職で働きたいです!」という人が多すぎる、という話だと思える
・…のだが、冷静に考えてみてほしい
・事務職とは要するに、オフィスで働くサラリーマンである
・輸送・機械運転職の代表例は、トラックの運転手である
・サラリーマンと運転手、人気が高いのはどちらであろうか?
・そう、受験業界で言われる「倍率」と、「有効求人倍率」は真逆の概念なのである
・実は「有効求人倍率」は、「求職者一人あたり、何件の求人があるか」という指標である
・つまり、有効求人倍率が高ければ高いほど、求職者は好きな仕事を選び放題、という指標なのである
・よって、高くても0.5倍しかない事務職は、人気の職業という事になる
・逆に、高いと2.5倍もある輸送・機械運転職は、人気が低い職業という事になる
・現役高校生は普通、有効求人倍率の意味なんて知らないし、資料2の読み方も分からない
・何も知らない高校生を、ここで引っ掛けようという訳である
・無論、大学入試センターの方も、有効求人倍率の意味を知らなければ解けない問題は流石に作らない
・ちゃんとヒントがある。「サラリーマンと運転手、人気が高いのはどちら」かもそうだが…
・読み進めていくと、より分かりやすいヒントがある
「労働経済白書」では、資料3が掲載されていて、( ウ )の労働力の需要量が( イ )いることが就職を難しくしていると分析されていたんだ。
・ここで( イ )が再登場し、資料3の話も出てくる
・では…と資料3を見てみると、これは資料2よりも分かりやすいヒントになっている
・資料3にあるパートタイムは、要するにバイトである
・もっと言えば、バイトの掛け持ちで生きていく人をフリーターと言う
・一方、フルタイムは普通、正社員である(フルタイムの契約社員というのもいるが…)
・この理解に立って資料3を見ると、有効求人倍率はパートタイムの方が圧倒的に高い
・問題作成者にとって、恐らく、この部分が最大のヒントなのだと思われる
⇒有効求人倍率を、大学受験の倍率と同じような意味だと捉えていても、ここで流石に「おかしい」と思ってほしい。誰だって、フリーターじゃなくて正社員になりたいだろ…と思ってほしい、と考えて資料3をつけたのだと思われる
※ちなみに、見るまでもなく( ア )が解けてしまう資料1だが、これも見ていればヒントになる。即ち、表1は失業率が下がれば下がるほど倍率が上がっている。言い方を買えれば、就職しやすくなればなるほど(入社試験に合格しやすくなればなるほど)倍率が下がっている。これを元に、「あれ、有効求人倍率ってもしかして…」と気付くこともできる
・という訳で、有効求人倍率は、受験で言われるような倍率とは逆の意味である
・数字が高ければ高いほどその職に就職しやすく、低ければ低いほどその職に就職しづらい
・これを理解できていれば、後は簡単である
「事務的職業」は労働力の需要量が( イ )いて、「輸送・機械運転の職業」は労働力の供給量が( イ )いるから、職種によるミスマッチが起こっている
「事務的職業」は労働力の需要量が不足していて、「輸送・機械運転の職業」は労働力の供給量が不足しているから、職種によるミスマッチが起こっている
( ウ )の労働力の需要量が( イ )いることが就職を難しくしている
フルタイムの労働力の需要量が不足していることが就職を難しくしている
・これが正しい文章となる
・よって、全ての条件を満たす「③ ア 上回って イ 不足して ウ フルタイム」が正解となる