令和五年度 大学入学共通テスト本試験 政治・経済 第1問 問5

問題

 国民の権利と義務に関連して、生徒Xと生徒Yは、日本国憲法における権利と義務の規定について話し合っている。次の会話文中の空欄[ア]には後の記述aかb、空欄[イ]には後の記述cかdのいずれかが当てはまる。空欄[ア][イ]に当てはまるものの組合せとして最も適当なものを、後の①~④のうちから一つ選べ。

X:憲法は、第3章で国民の権利および義務を規定しているね。立憲主義は国民の権利や自由を保障することを目標とするけど、こうした立憲主義はどのように実現されるのかな。
Y:憲法第99条は、憲法尊重擁護義務を、[ア]。このほか、憲法第81条が定める違憲審査制も立憲主義の実現のための制度だよね。
X:憲法は国民の個別的な義務に関しても定めているね。これらの規定はそれぞれどう理解すればいいのかな。
Y:たとえば憲法第30条が定める納税の義務に関しては、[イ]。

[ア]に当てはまる記述
a公務員に負わせているね。このような義務を規定したのは、公権力に関与する立場にある者が憲法を遵守すべきことを明らかにするためだよ
bすべての国民に負わせているね。このような義務を規定したのは、人類の成果としての権利や自由を国民が尊重し合うためだよ

[イ]に当てはまる記述
c新たに国税を課したり現行の国税を変更したりするには法律に基づかねばならないから、憲法によって義務が具体的に発生しているわけではないね
d財政上必要な場合は法律の定めなしに国税を徴収することができるので、憲法によって義務が具体的に発生しているね

①ア―a イ―c  ②ア―a イ―d  ③ア―b イ―c  ④ア―b イ―d

#大日本帝国憲法と日本国憲法 #税

解説

正解:①
復習用資料:政治分野第二章/大日本帝国憲法と日本国憲法
復習用資料:経済分野第一章/税

立憲主義は国民の権利や自由を保障することを目標とする

・ここを中心とした会話文を読んで解く問題である
・即ち、立憲主義によれば、憲法とは「国民の権利や自由を保障する」ものである
・逆に言えば、憲法とは「国民に義務を負わせたり、国民を拘束したりする」ようなものではない
・この考え方に基づいて考えれば、知識があまりなくとも解ける問題である

※ここで言う立憲主義は、言うまでもなく、英米系の立憲主義である。日本国憲法は英米系の考え方で書かれており、大日本帝国憲法はドイツ系の考え方で書かれている。この辺の知識は、憲法や人権の勉強の基礎になるものなので、忘れていた場合は、授業用資料や授業動画でよく復習しておこう

憲法第99条は、憲法尊重擁護義務を、[ア]
a公務員に負わせているね。このような義務を規定したのは、公権力に関与する立場にある者が憲法を遵守すべきことを明らかにするためだよ
bすべての国民に負わせているね。このような義務を規定したのは、人類の成果としての権利や自由を国民が尊重し合うためだよ

・憲法尊重擁護義務があるのは公務員なのだが、勿論、高校の政治経済ではそんな事はやらない
・しかし、先に見たように立憲主義によれば、憲法とは「国民の権利や自由を保障する」ものである

・この観点からすると、全国民に「この憲法を守れ!」と言うのは立憲主義に反する
・即ち、憲法で定めるには相応しくない

・逆に、憲法に「圧政をしてはいけません」と書き、公務員に「この憲法を守れ!」と言うのはどうか?
・授業でもやったように、憲法で出てくる公務員は、市役所の窓口にいるような人達は指さない
・大抵、国会議員等を指す事が多い。そして彼らは基本、権力者である
・権力者に「この憲法を守れ!」は、「国民の権利や自由を保障する」ものと言えるだろう

・よって、アはaとなる

・なお、日本国憲法では、「どんな思想信条でも持ってよい」という自由が認められている
・例えば「こんな憲法カスだよ」と思ってもよい。いわゆる内心の自由である
・そしてbは、国民が有する内心の自由を侵害するものと言える
・その観点からaを選んでもよいだろう

X:憲法は国民の個別的な義務に関しても定めているね。これらの規定はそれぞれどう理解すればいいのかな。
Y:たとえば憲法第30条が定める納税の義務に関しては、[イ]。

・この部分、何の話をしているのか分かりづらい

・が、立憲主義がこの会話のテーマであると考えて読めば分かる
・即ち、英米系の立憲主義によれば「国民の権利や自由を保障する」のが憲法である
・よって、義務という国民の自由を制限するものが憲法に書いてあるのは本来おかしい

・にも拘らず、日本国憲法には国民の義務が書いてある
・これをどう解釈したらよいのか、という会話である

[イ]に当てはまる記述
c新たに国税を課したり現行の国税を変更したりするには法律に基づかねばならないから、憲法によって義務が具体的に発生しているわけではないね
d財政上必要な場合は法律の定めなしに国税を徴収することができるので、憲法によって義務が具体的に発生しているね

・cの言う事は理解し難いかもしれないが、dは明らかな誤文である
・即ち、現代日本に於いては、国税は必ず法律で定めなければならない
⇒いわゆる租税法定主義である

・dが明らかに誤文である以上、イはcが正解となる

・勿論、英米系の立憲主義に基づけば、国民の義務が憲法に書いてあるのはあんまりよろしくない
・しかし実際に、日本国憲法には国民の義務として納税が書いてある
・そうである以上、ある程度アクロバティックな解釈(婉曲表現)による正当化が図られるのは当然である
・そういう理屈から、イはcだと判断してもよい

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