令和六年度 大学入学共通テスト本試験 政治・経済 第4問 問1
問題
生徒Xは、国際社会には主権国家より上位に立つものがないので、社会というよりは自然状態であるといわれることがあると知り、図書館で関連する文献を調べた。次の記述ア〜ウは、それぞれ「自然法論」「戦争と平和の法」「リヴァイアサン」の一節が含まれている。記述ア〜ウと後の著者名a〜cとの組合せとして正しいものを、後の①〜⑥のうちから一つ選べ。
ア 「自然状態はそれを支配する自然法をもち、すべての人間がそれに拘束される。…(略)…その自然法たる理性は、…(略)…何人も他人の生命、健康、自由、あるいは所有物を侵害すべきではないということを教えるのである。」
イ 「人びとが、かれらすべてを威圧しておく共通の権力なしに、生活しているときには、…(略)…自身のつよさと自分自身の工夫が与えるもののほかには、なんの保証もなしに生きている。…(略)…」
ウ 「戦の最中には、法は沈黙するかもしれないが、…(略)…自然が定め、または万民の合意が定立したところのものは依然効力を有する。…(略)…人民の間には、戦争を行うについて、かつまた戦争に関して有効なる共通法が存在する。…(略)…」
a グロティウス(グロチウス)
b ホッブズ
c ロック
① ア-a イ-b ウ-c
② ア-a イ-c ウ-b
③ ア-b イ-a ウ-c
④ ア-b イ-c ウ-a
⑤ ア-c イ-a ウ-b
⑥ ア-c イ-b ウ-a
解説
・政治分野で触れる思想家の知識を問う問題
・選択肢abcを見た時点で、「あ、この人はこういう人だな」というのをぱっと思いつければ簡単である
・例えば以下のようなものである
選択肢 | 名前を見て浮かぶべき知識 |
---|---|
フーゴー・グロティウス | ○国際法の理論的枠組みを提供した法学者 ・特に戦時国際法的の基礎となった |
トマス・ホッブズ | ○社会契約説を唱えた思想家 ・“万人の万人に対する闘争状態” ・だから自然権を放棄して国家に従おう |
ジョン・ロック | ○社会契約説を唱えた思想家 ・自然状態の人って意外と平和だよ ・他者の自然権(特に所有権)を尊重するよ ・でもたまにやらかす奴がいるよね ・だから警察や裁判所が必要になるよね ・ひいては国家が必要になるよね |
※倫理分野も含めると(つまり「倫理、政治・経済」の試験なんかだと)、ジョン・ロックは「人間の精神は生まれたばかりの頃は白紙(タブラ・ラサ)である」みたいな話をした哲学者としても出てくる。実際、この人はイギリス経験論の父とも言われる哲学者である。ただ、政治分野ではそこまでは扱わない
・こういう知識がちゃんと頭に入っていれば、それだけで解ける
※今回、ジョン・ロックについては結構細かい知識が出題されているが、他二つが解ければ後は消去法なので、問題ないと言えばない
ウ 「戦の最中には、法は沈黙するかもしれないが、…(略)…自然が定め、または万民の合意が定立したところのものは依然効力を有する。…(略)…人民の間には、戦争を行うについて、かつまた戦争に関して有効なる共通法が存在する。…(略)…」
・ウは明らかに、戦時国際法に関する話をしている
・国際法、特に戦時国際法の理論的枠組みを提供した思想家が、フーゴー・グロティウスである
・よってウはaであると分かる
・この時点で残る選択肢はジョン・ロックとトマス・ホッブズ、つまり社会契約説の二人である
ア 「自然状態はそれを支配する自然法をもち、すべての人間がそれに拘束される。…(略)…その自然法たる理性は、…(略)…何人も他人の生命、健康、自由、あるいは所有物を侵害すべきではないということを教えるのである。」
・自然状態から説き起こすのは社会契約説の特徴の一つである
・その時点でトマス・ホッブズかジョン・ロックのどちらかだと考えてほしい
⇒理想を言えば、ジョン・ロックが重視した自然権は所有権、というところまで覚えていればこの時点でアの答えは確定する。ただ流石にそこまで覚えていない人も多いと思われるので、このまま次に行ってみよう
イ 「人びとが、かれらすべてを威圧しておく共通の権力なしに、生活しているときには、…(略)…自身のつよさと自分自身の工夫が与えるもののほかには、なんの保証もなしに生きている。…(略)…」
・「かれらすべてを威圧しておく共通の権力なし」に生活している状態は危ういよ、と言っている
・言い方を変えれば、国家が存在していない状態で生活するのは危険だよ、と言っている
・これは明らかに、自然状態は万人の万人に対する闘争状態になった、と言うホッブズ的な記述である
・よって、アがcロック、イがbホッブズであると分かる