国家の正当性の原理

●授業動画一覧

国家の正当性の原理1/王権神授説 YouTube
国家の正当性の原理2/ホッブズの社会契約説 YouTube
国家の正当性の原理3/ロックとルソーの社会契約説 YouTube
国家の正当性の原理4/民主主義の原則 YouTube

●概要

・本節は「国家の正当性という観点から見ると、現代的な国家はどういう経緯で登場してきたのか」にあたる
⇒国家の正当性、特に統治権を「誰」が「何故」行使できるのか、という正当性の議論と発展を見ていく

●王権神授説

・近現代以前、近世の欧州では王政が主流だった
・王政の中でも、「国王=国家」という図式の絶対王政が、特に先進的な制度であった
※太陽王ルイ14世が、家臣に「そんなことをなさっては国家と民のためになりません」と諫言されたのに答えて言った、「民だけでよい」「朕は国家なり」は絶対王政を象徴する名台詞である。この時代、統治権を保持し行使したのは、王だった

・このような体制下ではやはり、「何で王様にはそこまでの権力があるの?」という素朴な疑問が出てくる
・そういった疑問に回答し、王政を正当化する学説が【王権神授説】である
※フランス王国の法学者ボダンや神学者【ボシュエ】、[家父長制論]を書いたイングランド王国の思想家【フィルマー】らが主な提唱者

・元々、王が権力を持つ事の説明として、「神に愛されているから」というのがあった
⇒欧州に於いて貴族や王というのは軍人であり、戦争の勝者であった。そして、戦争で勝てるのは「神に愛されているから」(負けるのは愛されていないから)であり、神に愛されているから権力があるし支配者になれるのだ、みたいな理屈があった
・中世末から近世はじめになると、王権神授説として理論化される

・「王権は【神】から付与されたものであり、王は【神】に対してのみ責任を負う」「【神】の代理人たる王への反抗は【神】への反抗であり、誰も王の支配に反抗する事は許されない」というのが王権神授説の骨子

●社会契約説

〇概要

・近世後半から唱えられ始める説。王権神授説と同じく、統治権を誰が、どうして持つのかを考える学説
・王権神授説が、正当化の根拠として【神】を用いるのに対し、社会契約説は【合意】を根拠とする
・社会契約説は必ずしも王政と対立するものではないが、民主主義への道も開いた
・社会契約説は、主に【ホッブズ】【ロック】【ルソー】の三人によって提唱、発展させられた
・三人とも、人間の【自然状態】から考えたというのは共通
⇒人がいるだけで社会も法律も政治も何もない状態、原始時代的な状態
 この状態で人が有する権利を【自然権】といい、自然状態の人間は自然権を持つというところも三人共通
・以下、三人の社会契約説をそれぞれ見て行く

〇ホッブズ

・トマス・ホッブズ。エリザベス処女王の時代に生まれ、王政復古期まで生きたイングランドの哲学者
・代表作は【『レヴァイアサン』】

・彼はまず、人間の【自然状態】(人がいるだけで社会も法律も政治も何もない状態、原始時代的な状態。この状態で人が有する権利を【自然権】という)はどんなものかと考えた時、それは[万人の万人に対する闘争状態]であると結論した
⇒人間は自己保存(自分が生き延びる事)を至上命題とする生命体であると考えた。その為自然状態では、人々は食料をはじめとする資源を奪い合い殺し合う、YouはShockな状態になると考えた
・万人の万人に対する闘争状態では、いかにもまずい。そこで人々は、全ての【自然権】を【国家】に譲渡する、という社会契約を結んだ。これが国家の起源であり、それ故に国家(そして国家の主たる王)は人々を支配できる―こう考えたのがホッブズの社会契約説

・ホッブズの社会契約説をまとめると以下
自然状態:【万人の万人に対する闘争状態】
契約:自然権を【放棄】、国家へ【全面的に譲渡】
主権:【国家、王】(自然権を全て譲渡されている為)
国家に対する人民の抵抗:【認められない】(自然権を全て譲渡してしまった為)
特徴:【絶対王政】とも親和性が高い

〇ロック

・ジョン・ロック。清教徒革命直前に生まれ名誉革命まで生きたイングランドの哲学者
・代表作は【『統治二論(市民政府二論)』】

・ロックは、自然状態はむしろ平和で、自由で平等であると考えた
⇒しかし、人間は[過ち]を犯す生き物であり、それによって[人の権利]が侵害される可能性はある
・そこで人々は、[国家]に[自然権]を守ってもらうよう、[統治権]を[委託]した
⇒この社会契約が国家の起源であり、故に国家(王や議会、特に議会)は人々を支配できる、と考えた

・ロックの社会契約説をまとめると以下
自然状態:[自由、平等、平和、独立]。但し時折誰かが[過ちを犯す]
契約:【自然権】を守ってもらう【委託契約】
主権:【国民主権】、但し【間接民主制】的な国民主権
国家に対する人民の抵抗:【認められる】(暴政のような委託契約違反があればOK)
特徴:【議会】政治と親和性が高い⇒【名誉革命】を正当化し、後の【アメリカ独立戦争】へも影響
   また、王制とも立憲君主制という形で並立できる

〇ルソー

・ジャン=ジャック・ルソー。革命前夜のフランス王国で活躍した、ジュネーヴ共和国生まれの哲学者
・代表作【『社会契約論』】【『人間不平等起源論』】
・実現不可能な高い理想を掲げた男。ヒモだった時期が一番幸せだったと正直に告白する男。教員免許持ちの人間には、「自分は子供を捨てた割に教育学の本を書いた男」としても有名

・ルソーは、自然状態こそが人類の理想郷であると考えた。自然状態の人々は、平等で自由である
⇒私有財産というものが生まれてしまった為に、人は不平等になり、不自由になった
※ここから、ルソーの考えは原則「自然に帰れ」となる

・理想は自然に帰る事。しかし今更自然に帰れないから、人々は【一般意思】(公共の利益を考える気持ち)を以って、皆で【話し合って】物事を決めるという契約を結ぶべきである、とルソーは考えた
⇒全体意思(皆が自分の事だけを考えている状態)で話し合いをしても意味がない。一般意思に従って、皆で話し合う事で決まり事ができる。そういう決まり事に従う事で、人は初めて自由になれる、という考え方
・議会政治のような間接民主主義では、選挙の時にしか人々に自由はない。直接民主主義でなければ意味がない、というのがルソーの立場

・ルソーの社会契約説をまとめると以下
自然状態:[理想郷。自由、自足、平等、調和]
契約:【一般意思】に基づく【話し合い】
主権:【国民主権】、但し【直接民主制】的な国民主権
特徴:【直接民主制】と親和性が高い⇒後に【フランス革命】へ影響を与える
   王制とは並立し得ない

●まとめと現代の民主主義

・国家を正当化する理論は↓のように展開してきたと言える

王権神授説 ホッブズの社会契約説 ロックの社会契約説 ルソーの社会契約説
正当化する政体 絶対王政 絶対王政 間接民主制(立憲君主制を含む) 直接民主制
自然状態 万人の万人に対する闘争状態 平和。但し、時々誰かが過ちを犯す 平和。理想郷
社会契約 自然権を王・国へ譲渡 自然権を政府に守ってもらう委託契約 一般意思に基づく、国民全員での話し合い

・日本を含む現代の国家は、その多くが民主主義政体を採用している
⇒つまり、ロックやルソーの社会契約説によって正当化されている
・民主主義政体について、もう少し具体的に見て行こう

〇民主主義政体の原則

・【リンカーン】の有名な言葉「人民の、人民による、人民のための政治」がこれをよく表している
⇒つまり、【国民主権】、【国民自治】、【国民受益】
・日本国憲法前文も分かりやすい。「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」
⇒「その権威は国民に由来し」つまり国民主権。「その権力は国民の代表者がこれを行使し」つまり国民自治。「その福利は国民がこれを享受する」つまり国民受益

〇直接民主制(直接民主主義)

・国民全員が集まり、討論する形式の民主主義政体
・古代ギリシアのポリスの政治はこれ(奴隷を除く市民による直接民主制)
・日本のような大国は言うに及ばず、殆どの国で実行不可能な政体
⇒何千万という国民をどこに集めてどうやって討論するんですか…という問題

〇間接民主制(間接民主主義)

・現代の日本の政体は? 無論、【立憲君主制】の【間接民主制】である
⇒つまり、現代日本の国家としての正当性は、ロックの理論に拠っていると言える
・国民が代表者を選出し、その代表者が統治権を行使する形式の民主主義政体
⇒代表者なので、政治家の事を代議士とか言う。また、代議士同士が討議を行う議会を形成する。この為、代議制民主主義、議会制民主主義などとも呼ぶ

・間接民主制には、いくつか重要な原理があり、これを逸脱すると間接民主制の意味がなくなる
1:【代表の原理】
⇒選挙によって代表(代議士、議員)を選ぶ。また、選ばれた議員は[国民全体の代表者]である事を求められる(特定の集団、特定の地域の代表者であってはならない)
2:【審議と多数決の原理】
⇒討論は、多数決によって決する(多数決の原理)。この際、少数意見も尊重せねばならない(審議の原理)
3:【行政監督の原理】
⇒統治権の行使に際し、汚職等の問題がないかどうかを、国民が監視せねばならない

・現代日本の政治も、上記の原理によって行われている
・但し、間接民主制にも欠点があるのは事実
⇒例えばルソーの「選挙の時にしか人々に自由はない」というような指摘は、一定の理がある
・その為現代日本では、間接民主制を基本にしつつも、一部直接民主制的な要素を取り入れている
例:憲法改正の国民投票、地方特別法の住民投票、最高裁判所裁判官の国民審査

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