令和六年度 大学入学共通テスト本試験 政治・経済 第4問 問5
問題
生徒Zは、宇宙開発に関連して、宇宙に関する国際法について調べた。次の資料は、宇宙条約(宇宙空間平和利用条約)から条文を抜粋したものである(なお、資料には表記を改めた箇所や省略した箇所がある)。また、資料中の当事国とは、条約の効力が及びている国をいう。後の記述ア〜ウのうち、資料に基づいて判断したとき、当事国であるJ国が宇宙条約違反となる事例として正しいものはどれか。当てはまるものをすべて選び、その組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑦のうちから一つ選べ。
第1条 …(略)…月その他の天体を含む宇宙空間は、すべての国がいかなる種別もなく、平等の基礎に立ち、かつ、国際法に従って、自由に探査しおよび利用することができるものであり、また、天体のすべての地域への立入りは、自由である。…(略)…
第2条 月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用もしくは占拠またはその他のいかなる方法によっても国際法上取得の対象とはならない。
第4条 条約の当事国は、核兵器および他の種類の大量破壊兵器を運送・配備・設置もしくは地球を周り軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置しないこと並びに他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に置かないことを約束する。
第6条 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間における自国の活動がすべて、それが政府機関によって行われるか非政府機関によって行われるかを問わず、国際的責任を有し、自国の活動がこの条約の規定に従って行なわれることを確保する国際的責任を有する。…(略)…
第7条 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間に物体を発射しもしくは発射させる場合またはその領域から物体が発射される場合において、その物体を発射した国および物体が領域から発射された国は、その物体またはその部品が月その他の天体を含む宇宙空間における条約の他の当事国またはその自然人もしくは法人に与える損害について国際的責任を有する。
ア J国は、地球を回る軌道上に、核兵器を搭載した人工衛星を乗せた。
イ J国は、自国の宇宙船が着陸した月面上のある場所の周辺を、自国の領土であると主張し、占拠した。
ウ J国の企業Kが製作しJ国国内から打ち上げた人工衛星が、他の当事国の領域に落下して甚大な損害を与えたところ、その原因は企業Kにあったことが立証されたので、J国は自国に国際的な責任はないと主張して責任をとらなかった。
① ア
② イ
③ ウ
④ アとイ
⑤ アとウ
⑥ イとウ
⑦ アとイとウ
解説
正解:⑦
・徹頭徹尾国語の問題。令和六年本試の政治経済はとにかく国語の問題が多い
・選択肢に書いてある内容が、問題文本文の条約違反になるものを選べばよい
ア J国は、地球を回る軌道上に、核兵器を搭載した人工衛星を乗せた。
第4条 条約の当事国は、核兵器および他の種類の大量破壊兵器を運送・配備・設置もしくは地球を周り軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置しないこと並びに他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に置かないことを約束する。
・並べると一発で分かるが、選択肢アは第四条違反である
イ J国は、自国の宇宙船が着陸した月面上のある場所の周辺を、自国の領土であると主張し、占拠した。
第2条 月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用もしくは占拠またはその他のいかなる方法によっても国家による取得の対象とはならない。
・こちらも並べると一発で分かる。選択肢イは第二条違反である
⇒ちなみに、「人類はついに宇宙へ飛び出し、月を植民地化した!」「人類は火星に住むようになった!」みたいなSF作品で、月や火星を支配しているのは国家ではなく企業…というものが多いのは、これが理由である。宇宙条約は「国家による取得」を禁じているだけで、企業による取得は禁じていないのだ
ウ J国の企業Kが製作しJ国国内から打ち上げた人工衛星が、他の当事国の領域に落下して甚大な損害を与えたところ、その原因は企業Kにあったことが立証されたので、J国は自国に国際的な責任はないと主張して責任をとらなかった。
第7条 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間に物体を発射しもしくは発射させる場合またはその領域から物体が発射される場合において、その物体を発射した国および物体が領域から発射された国は、その物体またはその部品が月その他の天体を含む宇宙空間における条約の他の当事国またはその自然人もしくは法人に与える損害について国際的責任を有する。
・これはちょっと長いが、並べてみれば選択肢ウが第七条違反だというのは分かる
⇒「J国の企業Kが製作しJ国国内から打ち上げた人工衛星」は「宇宙空間に物体を発射しもしくは発射させる場合またはその領域から物体が発射される場合」のどれかに当たる。そして、発射された物体が「与える損害について国際的責任を有する」と第七条にはっきり書いてあるが、選択肢ウでは「J国は自国に国際的な責任はないと主張して責任をとらなかった」とある