令和七年度 大学入学共通テスト追試験 公共、政治・経済

第1問

※第1問のリード文が実質、第1問の問1専用リード文である為、リード文を問1にのみ載せている

第1問 問1

A:新型コロナウイルス感染症のまん延は、ワクチン接種や副反応、重篤な患者の受入れなど、様々な問題をもたらしたね。医学的な観点からだけではなく、倫理的、法的、社会的な観点からの多面的な検討を要する課題もあった。
B:人工呼吸器を緊急に要する患者が多く運び込まれてきた場合に、限られた呼吸器を誰から先に装着するか、というトリアージの問題があるね。
A:功利主義の立場では、医療措置を加えれば助かる見込みが出てくる人を優先することで、[ ア ]の救命を目指すやり方が考えられる。
B:装着順を決めざるを得ないときに備えて、基準を定めておく必要はあるから、功利主義の発想は捨てきれないね。うーん、これって、「公共の福祉」という考え方と同じなのだろうか。
A:憲法上の「公共の福祉」は、社会全体の幸福を目的とする功利主義と直結するとは必ずしも言えないかも。それに、各人が平等にもつ人権や[ イ ]を何よりも尊重しようという義務論の立場からすると、救命に優先順位をつけるのは難しいと感じられるかな。
B:よりよい社会の実現のためには、すぐに答えの出ない問題について、皆で考えていくのが大事だね。地域社会のルールや私人どうしのルールも、社会の進展に伴って生じる課題に対応するために形成されてきたんだろうね。

会話文中の空欄ア・イに入る語句の組合せとして最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① ア 最大多数   イ 欲求
② ア 最大多数   イ 尊厳
③ ア 無差別   イ 欲求
④ ア 無差別   イ 尊厳

#国語問題 #倫理分野

第1問 問1解説

正解:②
復習用資料:倫理分野

・倫理分野の中でも功利主義とは何かについての知識を問い、その上で読解力も問う複合問題
・…の筈なのだが、これ、やろうと思えば全部読解力で行けちゃうのでは…ともなる問題である

A:功利主義の立場では、医療措置を加えれば助かる見込みが出てくる人を優先することで、[ ア ]の救命を目指すやり方が考えられる。

・選択肢は「最大多数」か「無差別」である
・功利主義と言えば、“最大多数の幸福”。これさえ覚えていれば、それだけで解ける知識問題の箇所である
・なのだが、正直、もう少し広く文章を読めば、国語力で解けてしまう

B:人工呼吸器を緊急に要する患者が多く運び込まれてきた場合に、限られた呼吸器を誰から先に装着するか、というトリアージの問題があるね。
A:功利主義の立場では、医療措置を加えれば助かる見込みが出てくる人を優先することで、[ ア ]の救命を目指すやり方が考えられる。
B:装着順を決めざるを得ないときに備えて、基準を定めておく必要はある

・ここの会話は、“全員は助けられない”からこそ誰かを優先せざるを得ない、という状況の話である
⇒この会話は、要するに、「緊急」の場合を頭に浮かべながらのものである。もう少し言えば、“全員は助けられない”という状況を想定して、ABが会話している。であれば、優先順位をつけて、一部を助けて一部を見捨てる、という形にせざるを得ない

・となると、[ ア ]に「無差別」は絶対に入らない
⇒「無差別の救命」であれば、優先順位をつけず、全員を救おうとする筈だからである。結果、消去法で残った「最大多数」が正答となるのだ

第1問 問2

人権に関して、生徒Aと生徒Bは、日本国憲法が保障する基本的人権は、「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」であり、自由獲得の歴史のなかで、次の考え方ア~ウが展開されてきたことを学んだ。後のカードX~Zは、人権保障に関する思想や歴史を表す資料を基に、生徒Aと生徒Bが作成したものである。考え方ア~ウと、それに対応するカードX~Zとの組合せとして最も適当なものを、後の①~⑥のうちから一つ選べ。

考え方
ア 権力者といえども法に従わなければならない
イ 市民の自由を守るために政治権力を分立する
ウ 人は生まれながらに人権を有している

カード
X すべての人は生れひとしく自由かつ独立しており、一定の生来の権利を有するものである。(斎藤眞訳)
Y 〔国王が、〕議会の同意なくして王の権威により法や法の執行を停止する権限があるかのようにふるまうことは違法である。(江藤晶子訳)
(注)表現を一部〔〕内で補っている。
Z 同一の人間あるいは同一の役職者団体において立法権力と執行権力とが結合するときは、自由は全く存在しない。(横田伸弘訳)

① ア-X   イ-Y   ウ-Z
② ア-X   イ-Z   ウ-Y
③ ア-Y   イ-X   ウ-Z
④ ア-Y   イ-Z   ウ-X
⑤ ア-Z   イ-X   ウ-Y
⑥ ア-Z   イ-Y   ウ-X

#人権の拡大 #国家の正当性の原理 #法の支配と法治主義 #世界の政治制度

第1問 問2 解説

正解:④
復習用資料:政治分野第一章/人権の拡大
復習用資料:政治分野第一章/国家の正当性の原理
復習用資料:政治分野第一章/法の支配と法治主義
復習用資料:政治分野第一章/世界の政治制度

・「人権の拡大」や「国家の正当性の原理」、「法の支配と法治主義」に関する知識を問う問題
・なのだが、あまり各項目の細かい内容は聞いてこない問題でもある
・むしろ、「中世・近世・近代史概略」をきちんと学んでいるかが問われている

ア 権力者といえども法に従わなければならない

・ヘンリー・ド・ブラクトンの格言と類似する、大憲章(マグナ・カルタ)の精神を表す文章である
⇒「王と雖も神と法の下にある」と言ったのが大憲章制定当時の人物、ヘンリー・ド・ブラクトン。清教徒革命直前、この言葉を引き合いに出して権利請願を起草したのがエドワード・コークである

・では、ヘンリー・ド・ブラクトンは何処の国の人か? 大憲章は何処の国で出たものか?
・それはもちろん、イングランド王国(現代のイギリス)である
・この国は伝統的に王の権力が弱い、という話は「中世・近世・近代史概略」でした
・即ちイングランド王国には、王の権力を、議会(や議会の制定する法)が牽制する伝統があるのだ

Y 〔国王が、〕議会の同意なくして王の権威により法や法の執行を停止する権限があるかのようにふるまうことは違法である。(江藤晶子訳)

・このイングランド王国の伝統に沿うのは、明らかにYである
・よって、ア-Yであると分かる

イ 市民の自由を守るために政治権力を分立する

・明らかに、権力分立に関する文言である
・簡単に言えば、あらゆる国家権力が一人に集中している状態が絶対王政であり、人の支配である
・近世も後半に入ると絶対王政が実現されていくが、その中で、人の支配の弊害も指摘され始める
・即ち、“絶対王政・人の支配の場合、一度圧政が始まったら止めようがない”のである

・ここで出てきた考え方の一つが、制御と均衡(チェック・アンド・バランス)に基づく権力分立である
・国家権力を二つか三つに分けて、互いに牽制させよ…という訳である
⇒これを提唱した人物としては、社会契約説でも有名なジョン・ロックや、三権分立を唱えたラ・ブレード=モンテスキュー男爵シャルル=ルイが有名

Z 同一の人間あるいは同一の役職者団体において立法権力と執行権力とが結合するときは、自由は全く存在しない。(横田伸弘訳)

・Zは、この権力分立の考え方の前提を述べたものである
前提:国家権力が全て「同一の人間あるいは同一の役職者団体」に集中していると、マズイ
結論:だから「政治権力を分立」しよう

・という訳で、イ-Zであると分かる

ウ 人は生まれながらに人権を有している

・人権という考え方の中でも、天賦人権説的な考え方である
・即ち、「人は生まれながらに」、一定の権利を有しているという考え方である
⇒一般に多いのは、“××という義務を果たしたから、△△という権利がある”という考え方である。人権、特に天賦人権説的な人権は、そうではない。誰であっても(どんな悪人でも、犯罪者でも、ニートでも)人権を持っている、と考える

X すべての人は生れひとしく自由かつ独立しており、一定の生来の権利を有するものである。(斎藤眞訳)

・こちらも、天賦人権説的な内容になっている
・何せ、「すべての人は(中略)一定の生来の権利を有する」のだから、これは天賦人権である

・よって、ウ-Xであると分かる

第1問 問3

地域社会のルールに関して、生徒Aと生徒Bは、都道府県や市町村には、それぞれ地域独自のルールがあるということを学び、自分たちが住むP市の条例について調べた。次の会話文中の空欄[ ア ]〜[ ウ ]に入る語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑧のうちから一つ選べ。

A:P市では、屋外広告物条例を作るために、条例案について広く住民の意見や情報を求める[ ア ]の手続きを始めたそうだよ。
B:条例を制定する場合にも実施されることがあるんだね。どんな内容の条例案なの?
A:どうやら、屋上広告は全面的に禁止、立て看板やのぼり旗も駅前でしか認められないみたい。うちのレストランはわかりにくい場所にあるから、あちらこちらに看板や広告を出しているんだよね。それらを撤去すると、お客さんが減ってしまうんじゃないかと心配だな。広告を規制するP市の条例案は、表現の自由や[ イ ]を侵害することになるんじゃないかな。
B:P市は、良好な景観を享受する住民の利益を重視しているんだろうね。環境権そのものは、[ ウ ]や生存権を根拠に主張されているようだけど、大気や水などの自然環境だけでなく、景観利益の保護も含むかどうかは議論があるね。うーん、基本的人権を保障しながら、同時に良好な景観を維持するのは案外難しいな。

① ア パブリックコメント   イ 労働基本権   ウ 幸福追求権
② ア パブリックコメント   イ 労働基本権   ウ 請願権
③ ア パブリックコメント   イ 営業の自由   ウ 幸福追求権
④ ア パブリックコメント   イ 営業の自由   ウ 請願権
⑤ ア マニフェスト   イ 労働基本権   ウ 幸福追求権
⑥ ア マニフェスト   イ 労働基本権   ウ 請願権
⑦ ア マニフェスト   イ 営業の自由   ウ 幸福追求権
⑧ ア マニフェスト   イ 営業の自由   ウ 請願権

#政党 #新しい人権 #日本国憲法と人権(自由権)

第1問 問3解説

正解:③
復習用資料:政治分野第一章/政党
復習用資料:政治分野第二章/新しい人権
復習用資料:政治分野第二章/日本国憲法と人権(自由権)

・文章が長ったらしいだけの、簡単な知識を問う問題である。こういうのは落とさないようにしたい

条例案について広く住民の意見や情報を求める[ ア ]の手続きを始めたそうだよ

・選択肢は「パブリックコメント」か「マニフェスト」である
・報道を見ている人は一発でパブリックコメントと分かる
・報道を見ていない人も、「マニフェスト」が明らかに違うというのは分かる筈である
⇒公共や政治経済の“政党”のところでやる内容だが、“私が当選したらこういう事をします”というのを公約と言うが、その公約の中でも、「我々が政権を取ったら」という形を採り、尚且つ財政的な裏付けや実施期限等が示されているものをマニフェスト(政権公約)と呼ぶ

・よって、[ ア ]は「パブリックコメント」である

うちのレストランはわかりにくい場所にあるから、あちらこちらに看板や広告を出しているんだよね。それらを撤去すると、お客さんが減ってしまうんじゃないかと心配だな。広告を規制するP市の条例案は、表現の自由や[ イ ]を侵害することになるんじゃないかな。

・選択肢は「労働基本権」か「営業の自由」である
・よって、広告の規制が“労働者の権利”と“経営者の自由”どちらを侵害するか考えればよい

・上記に引用したAさんの発言をもう一度読んでみよう。これは明らかに、経営者の発想である
⇒労働者(社員)にとってみれば、客は少なければ少ない方がいい。レストランに来る客が増えたところで給料は増えないし、単に忙しくなるだけである。最悪、潰れても転職すればよい。一方、経営者にとってみれば、客が増えれば増えるほど儲かる。逆に客が減って店が潰れるとなれば、経営者は莫大な借金を背負う可能性も出てくる。となると、“広告が減ったら客が減るかもしれない、心配”というのは、経営者の発想であると分かる

・つまり広告の規制は、「営業の自由」の侵害にはなり得ても、「労働基本権」の侵害にはなり得ない
⇒言い方を変えれば、“好きな場所で好きな店を経営していい”という自由の侵害にはなり得ても、労働者の権利の侵害にはならない

・よって、[ イ ]は「営業の自由」である

環境権そのものは、[ ウ ]や生存権を根拠に主張されている

・環境権は、いわゆる“新しい人権”の一種である
・そして“新しい人権”は、一般に、“幸福追求権”を根拠に展開される事が多い
⇒要するに日本国憲法制定時は存在しなかった人権を、一般に“新しい人権”と呼ぶ。日本国憲法制定後の社会の変化の中で、“憲法には書いていないが、憲法の理念を考えれば認められるべきでしょう”となって生まれてきた種々の人権が“新しい人権”と言える。その性格から、新しい人権は日本国憲法に明記されていないが、全く根拠がない訳でもなく、一般的には日本国憲法十三条の幸福追求権が根拠となっている

・よって、[ ウ ]は選択肢を見るまでもなく「幸福追求権」である

第1問 問4

私人どうしのルールに関して、生徒Aと生徒Bが、先生Tと契約の原則や契約の解除に関する法律上のルールについて学んでいる。次の会話文中の下線部dと下線部eの発言内容の正誤の組合せとして最も適当なものを、後の①〜④のうちから一つ選べ。

A:近いうちに買おうと思っている自転車があります。d契約が成立すると、原則として、契約を一方的にやめることはできないんですよね。だとすれば、あるお店でいったん自転車を買った後で、同じ型の自転車をもっと安い値段で売っているお店を見つけた場合、そちらのお店で自転車を買い直したくても、もとのお店に自転車を返品して返金してもらうことはできない、ということになりますか?
T:お店側の好意で返品に応じてくれることはあるかもしれませんが、いったん契約が成立した後で、契約を取り消したり解除したりするためには、法律に規定されている取消しや解除の要件を満たす必要がありますね。
B:私は、エステティックサロンに通いたいと思っています。何か特別な法律上のルールがありますか?
T:事業者がエステサービスを一定の期間にわたり提供し、利用者が一定の料金を支払うことを約束する契約で、その期間が1月を超え、かつ、総額が5万円を超えるものは、特定商取引法が定めるクーリング・オフ制度の対象になります。
B:たしかeクーリング・オフは、一定の期間内であれば、事業者の同意を条件に契約を解除することができるという仕組みですね。いずれにせよ、契約を結ぶときには、契約内容をしっかり確認して、熟慮することが大事ですね。

①d―正 e―正   ②d―正 e―誤   ③d―誤 e―正   ④d―誤 e―誤

#消費者問題

第1問 問4解説

正解:②
復習用資料:経済分野第二章/消費者問題

・共テでは、“下線部だけ見ればOK”と“問題文全体を見ないと駄目”という問題が混在している
⇒なので、共テ(の特に公共、政治経済)では、“問題文全体は読まず、下線部とその周辺だけ読む”という“ラク”をするやり方はしないようにしたい

・この問題は典型で、下線部dに関しては後者、下線部eに関しては前者である
⇒即ち、下線部dについては問題文の残りの部分を読めば正誤が判定できる。下線部eに関しては、下線部だけ読めば、後は知識で判定できる

d契約が成立すると、原則として、契約を一方的にやめることはできない
T:お店側の好意で返品に応じてくれることはあるかもしれませんが、いったん契約が成立した後で、契約を取り消したり解除したりするためには、法律に規定されている取消しや解除の要件を満たす必要がありますね。

・下線部dの直後のTの発言を読めば、dは正であると分かる
⇒Tが言っているのは、要するに「原則として、契約を一方的にやめることはできない」という話である

eクーリング・オフは、一定の期間内であれば、事業者の同意を条件に契約を解除することができるという仕組み

・こちらは、クーリング・オフについて知っていれば誤と分かる部分である

・クーリング・オフの概要は、“売買契約の成立後一定期間内なら、買主側から契約を解除できる”である
⇒即ち、買った側が一方的に(売った側の同意なしに)契約を解除できる、というのがクーリング・オフである。特定商取引法等の、悪徳商法を防止する系の法律に書いてあるやり方である

・一方で、eには「契約を解除」するには「事業者の同意を条件」にしている
・よって、eは誤である

第2問

※リード文(らしきもの、二行しかない)は割愛

第2問 問1

若者議会で三人に求められているのは、現代社会における社会保障の課題を整理し、若い世代として、それらの課題にどのように取り組むことができるかについて提言することである。三人は、「公共」の授業内容を振り返り、若い世代がどのように社会に参画してきたのかという点に焦点をあて、青年期における自己の在り方と社会との関わり方について考えてみた。社会的に「大人」となるためには、身体的な成熟だけでなく、心理的・社会的な成熟が求められていることが、授業のテーマとなっていた。このテーマに関する次の記述ア〜ウは、後の記述X・Yのいずれに該当するか。それぞれの組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑥のうちから一つ選べ。

ア 大人としての責任や社会的義務が、部分的に猶予される
イ 親や年長者の考え方や、社会的権威に反抗する
ウ 一定の儀式を経ることで、社会的な地位や社会的役割が与えられる
X 人の一生には、七五三や成人式のように、人生の節目に行われる行事がある
Y 人の一生には、自分自身をよく知り、独自の価値観や人生観を体得し、精神的な自立を実現する時期がある

①X―アとイ Y―ウ
②X―アとウ Y―イ
③X―ア Y―イとウ
④X―イとウY―ア
⑤X―イ Y―アとウ
⑥X―ウ Y―アとイ

#国語問題

第2問 問1解説

正解:⑥

・倫理分野の問題…に見せかけた、ただの国語の問題である
⇒倫理分野の、特に“青年期の課題”でよく見る短文を組み合わせる問題なのだが…そもそも“青年期の課題”をやっていなくても、国語力で普通に組み合わせられてしまう

・本問で重要になるのは、“短文ア~ウは必ずXかYに分類される”という点である
⇒即ち、“短文アはXでもないしYでもない”というような話は存在しない。その為、例えば“短文アは明らかにXではないが、だからと言ってYかと言われると微妙じゃないか…?”というような場合でも、Yに分類してしまえばよいのである。そこさえ分かってしまえば、本問は簡単である

ア 大人としての責任や社会的義務が、部分的に猶予される

・明らかに、Xの言う「人生の節目に行われる行事」の話ではない
・むしろ、Yの方が「~する時期」と言ってるだけ、まだ近い

・よって、アはYに分類すべきである

イ 親や年長者の考え方や、社会的権威に反抗する

・反抗期の話っぽいが、やはり明らかに、Xの言う「人生の節目に行われる行事」の話ではない
・一方Yでは、「精神的な自立を実現する時期」と言っており、反抗期の話っぽい感じがある

・よって、イはYに分類すべきである

ウ 一定の儀式を経ることで、社会的な地位や社会的役割が与えられる

・「一定の儀式」は、Xの言う「人生の節目に行われる行事」の話と理解する事が可能である
・また選択肢から見ても、アイウ全部Yというのはあり得ず、ひとつはXが必要である

・よって、ウはXに分類すべきである

第2問 問2

三人は、若い世代の負担と老後の経済生活に対する備えについて考えるために、「公共」の授業ノートで紹介されていた、スウェーデン、日本、アメリカの3か国の社会保障に関するデータを調べた。ノートには、表1の、財務省がまとめた、国民所得(NI)に対する租税負担と社会保険料負担の合計の割合である「国民負担率(対NI比)」のデータ、及び、表2の「50歳代までに行った老後の生活に向けてしていたこと」をまとめたデータが紹介されていた。後の会話文を読み、Xは3か国のうちどの国にあてはまるか、そしてXに対応する国は、後のア〜ウのどれにあたるのか、その組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑨のうちから一つ選べ。

表1 国民負担率(対NI比)(%)

国民負担率(対NI比)
X 32.3
Y 54.5
Z 47.9

(注)国民負担率(対NI比)2020年、日本は2020年度データ。
(出所)財務省Webページにより作成。

表2 50歳代までに行った老後の生活に向けてしていたこと(%)

  預貯金 個人年金への加入 債券・株式の保有、投資信託 老後も働いて収入が得られるように職業能力を高める
54.6 24.0 13.5 12.7
42.4 48.8 32.5 1.3
62.7 45.7 52.2 27.1

(注1)対象は各国在住の60歳以上の男女個人(施設入所者は除く)である。
(注2)複数回答のため、合計は100%にはならない。
(注3)項目は表2に示したもの以外に「不動産取得」などがあるが、省略している。
(出所)内閣府「第&回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(2020年)(内閣府Webページ)により作成。

A:表1と表2のデータを比較してみると、国ごとの社会保障費の負担に関連した、老後に向けての準備状況の特徴がよく見えてくる。
B:国民負担率が最も高い国では、「老後も働いて収入が得られるように職業能力を高める」という回答の比率が、顕著に低くなっているね。
C:逆に、社会保障制度の整備状況が低い国ほど、「預貯金」などのかたちで、自ら老後の生活に向けて準備しておくことが必要になってくるようだ。国ごとの社会保障制度に対応するかたちで、個人の負担状況も変わるという傾向が見えてくるね。
A:たしかに、国民負担率が3か国のなかで最も低かった国では、「預貯金」「債券・株式の保有、投資信託」と「老後も働いて収入が得られるように職業能力を高める」という回答の比率が、最も高くなっている。
B:もっとも、単純な相関とは言えないね。3か国を比較すると、ちょうど国民負担率が中間だった国では、「個人年金への加入」と「債券・株式の保有、投資信託」という回答の比率が最も低くなっているからだ。
C:国民負担率と社会保障制度の国ごとの違いについて考えることは、だれがどのように負担するか、若いうちから将来に対する準備をどのようにしておくべきかを考える上で、重要なポイントだね。

  表1のXの国名 Xに対応する表2が示す国の記号
スウェーデン
スウェーデン
スウェーデン
日本
日本
日本
アメリカ
アメリカ
アメリカ

#社会保障 #国語問題

第2問 問2解説

正解:⑨
復習用資料:経済分野第二章/社会保障

・“アメリカ合衆国の社会保障はオワコン”という知識があれば、後は国語の問題である
⇒私なんかは授業中、雑談で何度も何度も繰り返し言う話なのだが…教科書にばっちり載ってるような知識ではないし、日本全国の高校三年生の人生を占う共テでこんな事聞いていいのか…? という気持ちはかなりある。ただこの手の、“普段から報道とか見てれば何となくそういう知識ついてるよね”的な前提を元に作られた問題が近年増加傾向なのも事実である

・今回、問題としてはXが問われており、表1を見ると、Xは日米瑞三国の中で国民負担率が最も低い
・よって、会話文の中でも↓の部分さえ見つける事ができれば、答えは分かる

C:逆に、社会保障制度の整備状況が低い国ほど、「預貯金」などのかたちで、自ら老後の生活に向けて準備しておくことが必要になってくる
A:たしかに、国民負担率が3か国のなかで最も低かった国では、「預貯金」「債券・株式の保有、投資信託」と「老後も働いて収入が得られるように職業能力を高める」という回答の比率が、最も高くなっている

・この会話から、Xはアメリカ合衆国であると分かる
⇒CとAは、明らかに、「国民負担率が3か国のなかで最も低かった国」こそが「社会保障制度の整備状況が低い国」であるという前提で話をしている。表1から、「国民負担率が3か国のなかで最も低かった国」はXなので、日米瑞三国で「社会保障制度の整備状況が低い国」が分かれば、Xの国名も分かる。そして、日米瑞三国で社会保障がオワコンな国はどれかとなれば、それは言うまでもなく、自由権重視で社会権も公共事業も社会保障も大っ嫌いなアメリカ合衆国以外にあり得ない

・また、この会話から、Xはウであるという事も分かる
⇒「国民負担率が3か国のなかで最も低かった国」、即ちXが、表2に於いてどんな結果になっているかをAが語っている。それによると、Xは、表2の中では「預貯金」「債券・株式の保有、投資信託」「老後も働いて収入が得られるように職業能力を高める」が最も高かった。表2を見ると、その条件を満たすのはウであると分かる

第2問 問3

三人は社会保障の在り方をさらに検討した。三人が二つの代表的な年金制度の仕組みの特徴と社会情勢の変化によって影響を受けやすい点、及び、対応策について検討した際の次のメモを読み、メモ中の空欄[ イ ]・[ ウ ]・[ エ ]に入る語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑧のうちから一つ選べ。

メモ

年金制度 [ ア ]方式 [ イ ]方式
特徴 現役時に年金受給者が支払った年金保険料を財源として、年金受給者への支給を行う。 その時々の現役世代が負担する年金保険料を財源として、年金受給者への支給を行う。
社会情勢の変化によって影響を受けやすい点 社会情勢の持続的な物価の上昇によって、年金給付額の実質的価値が[ ウ ]することがある。 少子高齢化が進み世代間の人口比率が変動することに伴い、給付水準を維持するためには、現役世代の年金保険料負担を[ エ ]必要がある。
対応策 一人ひとりが掛け金を用いて、投資などの資産運用をしていくことで対応する。 年金支給開始年齢を引き上げることで対応する。

① イ 賦課   ウ 減少   エ 減らす
② イ 賦課   ウ 減少   エ 増やす
③ イ 賦課   ウ 増加   エ 減らす
④ イ 賦課   ウ 増加   エ 増やす
⑤ イ 積立   ウ 減少   エ 減らす
⑥ イ 積立   ウ 減少   エ 増やす
⑦ イ 積立   ウ 増加   エ 減らす
⑧ イ 積立   ウ 増加   エ 増やす

#社会保障

第2問 問3解説

正解:②
復習用資料:経済分野第二章/社会保障

・積立方式と賦課方式についての基本的な知識を問う問題である。こういう問題は落とさないようにしたい

[ ア ]方式
現役時に年金受給者が支払った年金保険料を財源として、年金受給者への支給を行う。

・これが積立方式である
⇒かつて、日本の年金制度はこれであった。その為、令和七年現在も、“自分が今貰っている年金は、現役世代が稼いだカネが財源”であると理解していない高齢者は多い

[ イ ]方式
その時々の現役世代が負担する年金保険料を財源として、年金受給者への支給を行う。

・これが賦課方式である
⇒令和七年現在、事実上賦課方式に移行している。日本政府や教科書は長い事「修正積立方式」や「修正賦課方式」と言って頑なに賦課方式であると認める事を拒んでいたが、近年の教科書は普通に「賦課方式」と書き始めている

積立方式
社会情勢の持続的な物価の上昇によって、年金給付額の実質的価値が[ ウ ]することがある。

・物価が上がると、連動して貨幣価値は下がる。これは経済の基本である
⇒例えば、去年までは一本百円だったペットボトルが、今年は一本二百円に値上げされた、としよう。これは言うまでもなく物価上昇にあたる。一方、貨幣価値(カネの価値)に着目するとどうなるか? 去年までは、百円玉にはペットボトル一本分の価値があったが、今年はペットボトル一本分の価値はない(百円玉二枚でようやくペットボトル一本分)…という話になる。即ち、物価上昇に合わせて、貨幣価値(カネの価値)が下落しているのである

・故に、年金支給額が同じでも、インフレ(物価上昇)が起こると、その価値は減少する
・よって、[ ウ ]は「減少」である

賦課方式
少子高齢化が進み世代間の人口比率が変動することに伴い、給付水準を維持するためには、現役世代の年金保険料負担を[ エ ]必要がある。

・賦課方式は、単純化して言えば、“若者が稼いだカネで高齢者を養う”形の年金である
・では、令和七年現在の日本国で進行しているように、少子高齢化が進むとどうなるか?
⇒言い方を変えると、“若者が多く高齢者が少ない”から“若者が少なく高齢者が多い”へ変化した場合、どうなるか…という事である。言うまでもなく、若者一人が払う保険料を増やさないと、高齢者へ支給する年金額を維持できない
※まぁ、日本国の公的年金は公費も投入して維持しているものなので、“国債発行して年金支給に充てる”とかしてもいいのだが…民意が許さないしね……

・よって、[ エ ]は「増やす」である

※ところで、この問題の「対応策」の部分要らないというか、ガバガバ過ぎませんか…? 日本全国の高校三年生が受ける試験で、こんなガバガバ対応策をまるで正解であるかのように示していいのか…? 積立方式の対応策とか、最早「じゃあ年金って制度自体やめろよ」って話にしかならなさそうなのだが……

第2問 問4

三人は、これまでの検討結果を整理し、若者議会で提案する内容をまとめている。次の会話文を読み、会話文中の空欄[ ア ]〜[ ウ ]に入る語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑧のうちから一つ選べ。

A:若者議会の提案をまとめていくために、強調したいポイントを出してほしい。
B:公的年金の世代間公正について検討したけど、若い世代の課題としては、親から子の世代に格差や貧困が引き継がれる問題についても考える必要がある。
C:その点について考えてみると、貧困などに陥った際に生じる問題を防ぐ仕組みや制度である[ ア ]の機能が注目される理由が見えてくる。
A:その機能について、地域社会や企業の役割も大切になってくると思う。社会保険のなかでも、事業主のみが負担する[ イ ]の意義にも気付かされた。
B:たしかに、政府や企業など多様な主体が関わる仕組みはとても重要だと思う。
C:私は、社会保障制度を持続可能なものとするために、一人ひとりが取り組む意識を高め、社会に参画する準備を促すことを提案したい。
A:若い世代が主体的に社会に参画するための方法には、何があるだろうか。
B:[ ウ ]があげられるね。授業では、阪神・淡路大震災後に大きく進展したことから、1995年が日本における[ ウ ]の「元年」と言われたことを学んだ。
C:様々な主体が社会課題に関わる可能性を示してくれたので、さらに検討して提案をまとめていこう。

① ア ディーセント・ワーク   イ 雇用保険   ウ 公共サービス
② ア ディーセント・ワーク   イ 雇用保険   ウ ボランティア
③ ア ディーセント・ワーク   イ 労災保険   ウ 公共サービス
④ ア ディーセント・ワーク   イ 労災保険   ウ ボランティア
⑤ ア セーフティネット   イ 雇用保険   ウ 公共サービス
⑥ ア セーフティネット   イ 雇用保険   ウ ボランティア
⑦ ア セーフティネット   イ 労災保険   ウ 公共サービス
⑧ ア セーフティネット   イ 労災保険   ウ ボランティア

#労働問題 #社会保障

第2問 問4 解説

正解:⑧
復習用資料:経済分野第二章/労働問題
復習用資料:経済分野第二章/社会保障

・知識を問うだけの問題を会話文で糊塗しただけの、あんまり捻りがない問題である
⇒問われている知識もイ以外はそんなに難しいものではないので、少なくともアとウに関しては間違えないようにしたい
※イに関しては…いや確かに去年の共テ本試でも同じ知識を問う問題が出たけど…そこそんなにしつこく聞く知識か…? 私が公共とか政治経済の授業するなら強調するとこだけど、普通の人はそんなとこやらないと思うぞ…? って感じ

貧困などに陥った際に生じる問題を防ぐ仕組みや制度である[ ア ]

・選択肢は「ディーセントワーク」か「セーフティネット」である
・ここは、単語の意味さえ分かっていれば「セーフティネット」が正解であるとすぐ分かる
⇒社会保障の文脈で、貧困を予防したり、貧困により生じる問題を防いだりするのがセーフティネットである。本文から、明らかにこちらが適切である
※ディーセントワークは、“働きがいのある人間らしい仕事”を指す。もうちょっと言うと、“人間らしい生活“を”継続的に“営める労働である。つまるところ、ブラック労働や超低賃金労働は“人間らしい生活“を”継続的に“営む事はできない訳で…

・よって、アは「セーフティネット」である

社会保険のなかでも、事業主のみが負担する[ イ ]の意義にも気付かされた

・選択肢は「雇用保険」か「労災保険」である
・労災保険の保険料は、事業主(会社)のみが払う
⇒と言うか、実際に労災が発生した時の報告や、給付金請求なんかも全部事業主(会社)がやる。労働災害は完全に会社の責任なんだから、会社が全部やれ、という考え方である

・よって、イは「労災保険」である
※先にも触れたが、全く同じ知識が昨年(令和六年)追試験でも問われているので、大学入試センター的にホットな話題なのかもしれない

A:若い世代が主体的に社会に参画するための方法には、何があるだろうか。
B:[ ウ ]があげられるね。授業では、阪神・淡路大震災後に大きく進展したことから、1995年が日本における[ ウ ]の「元年」と言われたことを学んだ。

・選択肢は「ボランティア」か「公共サービス」である
・文脈的にも知識的にも、ウには「公共サービス」は入らないだろう

・まず知識で考えてみよう。阪神淡路大震災は、ボランティアの元年と呼ばれる事件でもある
⇒阪神淡路大震災は、当時の村山内閣の無為無策(以外にも色々あるけど)もあって、“公”による対応が遅れた事で有名である。一方で、現地でのボランティア活動が活発に行われ、また注目されたのもあり、阪神淡路大震災が起きた1995年はボランティアの「元年」と呼ばれている
⇒よって、ウに「公共サービス」は不適切で、「ボランティア」が適すると考えられる

・一方、文脈から考えるなら、Aの「若い世代が主体的に社会に参画する」発言に注目すればよい
⇒ここで言う「若い世代」は高校生や大学生であろうと考えられるが、一般に、「公共サービス」は官僚がやるものである(公共サービスの例をざっと挙げると、警察、裁判所、ゴミ収集、上下水道、公立学校、公民館…等々。公務員がやるものである)。逆に、「ボランティア」は、若い世代でも気軽に参加できる

・どちらから考えても、ウは「ボランティア」である

第3問

※全く見る価値のないリード文省略

第3問 問1

生徒Xと生徒Yは、人身の自由について話し合っている。次の会話文中の空欄[ ア ]・[ イ ]に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜④のうちから一つ選べ。

X:J教授の授業はとても興味深かったね。J教授は、犯罪の内容と刑罰をあらかじめ法律で定める[ ア ]は、許される行為と許されない行為との境界線を事前に示すことで、国民が刑罰を科せられる危険を事前に予測できるようにしている、と指摘していたね。
Y:なるほどね。日本国憲法では、行為のときに犯罪と定められていなかったのに、行為の後に制定された法律でその行為が犯罪とされ、刑罰が科せられないようにするために[ イ ]が定められているよ。
X:J教授は、刑事手続の場面では、告知と聴聞の機会を与えることも大切だと話していたけれど、どういうことかな。
Y:たとえば、抑留・拘禁される人に対して直ちに理由が知らせられなければ、逮捕が正当なものかどうかを判断したり、捜査機関や裁判所に十分な弁明をしたりすることができなくなってしまうよね。

[ ア ]に当てはまる語句
a罪刑法定主義
b過失責任主義

[ イ ]に当てはまる語句
c遡及処罰の禁止
d残虐な刑罰の禁止

① ア―aイ―c   ② ア―aイ―d   ③ ア―bイ―c   ④ ア―bイ―d

#日本国憲法と人権(自由権)

第3問 問1 解説

正解:①
復習用資料:政治分野第二章/日本国憲法と人権(自由権)

・知識を問うだけの問題を会話文で糊塗しただけの、あんまり捻りがない問題である
⇒問われている知識は二つあるが、どちらも簡単。こういう問題は絶対落とさないようにしたい

J教授は、犯罪の内容と刑罰をあらかじめ法律で定める[ ア ]
[ ア ]に当てはまる語句
a罪刑法定主義
b過失責任主義

・「罪刑法定主義」を端的に説明すれば、「犯罪の内容と刑罰をあらかじめ法律で定める」となる
・よって、アはaである

※罪刑法定主義が主に公法(国家と国民の関係を規定)に出てくる概念なら、過失責任主義は、私法(私人と私人の関係を規定)の話で出てくる概念である。即ち、損害賠償でカネを払うのは、過失があった時だけにしようね…という考え方を過失責任主義と呼ぶ。公共や政治経済の授業では、消費者問題の単元で“PL法は無過失責任主義だよ~、過失責任主義じゃないよ~”みたいな形でよく出てくる

日本国憲法では、行為のときに犯罪と定められていなかったのに、行為の後に制定された法律でその行為が犯罪とされ、刑罰が科せられないようにするために[ イ ]が定められているよ
[ イ ]に当てはまる語句
c遡及処罰の禁止
d残虐な刑罰の禁止

・「遡及処罰の禁止」の端的な説明が、[ イ ]の直前の文章である
・よって、イはcである

※「残虐な刑罰の禁止」は…いやこれ解説しようがないですね。そのまんま、“残虐な刑罰は禁止です”という意味である。例えば現代日本では、絞首刑による死刑は「残虐な刑罰」にカウントされていない。これが、“市中引き回しの上打首獄門”とかだと「残虐な刑罰」カウントされると思われる

第3問 問2

全国民の代表に関して、生徒Xと生徒Yは、模擬授業で配布された次の資料を参考に、日本国憲法における国会議員と選出母体との関係について議論している。後の会話文中の空欄[ ア ]に当てはまる記述と空欄[ イ ]に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜④のうちから一つ選べ。

資料 全国民の代表と命令委任の禁止
〇中世ヨーロッパでは、貴族、聖職者、市民などの身分別に部会がおかれる身分制議会が存在した。この身分制議会において、議員は選出母体の代表とされ、その職務遂行に際しては選出母体からの指示に拘束され、この指示を守らない場合には召還・解任される命令委任の関係が成立していた。
〇近代以降の議会では、議員は選出母体の代表ではなく、全国民の代表とされ、命令委任は禁止されるとの考えが普及した。議員は、選出母体からの指示ではなく、自らの信念に従い、討論を通じて全国民の福利を追求すべきだと考えられるようになった。

会話文
X:J教授は、日本国憲法は国会議員を全国民の代表としており、資料にある命令委任の禁止を継承しているとする考えが有力だと言っていたね。
Y:代表者の選出母体からの独立性を強調する命令委任の禁止の考えに照らしてみれば、今の日本では[ ア ]ことがよく理解できるね。
X:J教授の説明では、日本国憲法では、国会議員が全国民の代表として活動できるために不逮捕特権や免責特権などが認められているとのことだったね。
Y:そのうち、[ イ ]は、議院の承認があるときなど一定の場合を除いて、原則として会期中にのみ認められるんだね。

[ ア ]に当てはまる記述
a議院による所属議員の除名が認められている
b有権者による国会議員の解職請求が制度化されていない

[ イ ]に当てはまる語句
c不逮捕特権
d免責特権

① ア―aイ―c   ② ア―aイ―d   ③ ア―bイ―c   ④ ア―bイ―d

#立法府(国会) #国語問題

第3問 問2 解説

正解:③
復習用資料:政治分野第三章/立法府(国会)

・前半は国語の問題、後半は知識問題、という複合問題である
・より正確に言うと、↓のようになっている
[ ア ]:選択肢ab共に正文で、問題文全体を読んで文脈に沿うものを選ぶ
[ イ ]:知識で解く ※なお、問うている知識は結構マニアック

Y:代表者の選出母体からの独立性を強調する命令委任の禁止の考えに照らしてみれば、今の日本では[ ア ]ことがよく理解できるね。
[ ア ]に当てはまる記述
a議院による所属議員の除名が認められている
b有権者による国会議員の解職請求が制度化されていない

・既に見たように、選択肢abはどちらも正文であり、文脈で解く事を求められる
・ここで重要になるのは、「命令委任の禁止」に沿う制度設計はabどちらか、という話である

身分制議会において、議員は選出母体の代表とされ、その職務遂行に際しては選出母体からの指示に拘束され、この指示を守らない場合には召還・解任される

・命令委任とは、上記引用文のような考え方である。議員は、選出母体の意に反する場合、クビになる

X:J教授は、日本国憲法は国会議員を全国民の代表としており、資料にある命令委任の禁止を継承しているとする考えが有力だと言っていたね。
Y:代表者の選出母体からの独立性を強調する命令委任の禁止の考えに照らしてみれば、今の日本では[ ア ]ことがよく理解できるね。

・そしてこの会話の要旨は、“命令委任のような考え方はダメ、ってのが現代日本社会だよ“だと言える
⇒現代日本には「命令委任」がない、言い方を変えれば、“議員は、選出母体の意に反する場合、クビになる”がない、という話である

・よって、会話文に沿う選択肢はb、「有権者による国会議員の解職請求が制度化されていない」である

Y:そのうち、[ イ ]は、議院の承認があるときなど一定の場合を除いて、原則として会期中にのみ認められるんだね。
[ イ ]に当てはまる語句
c不逮捕特権
d免責特権

・アと違って、完全に知識を問うてくる部分である(しかもマニアック)
・会期中にのみ発揮される議員特権は、不逮捕特権である
・よって、イはcである

ついでに議員特権をおさらいしちゃおうの会

・公共や政治経済で出てくる議員特権は、主に三つ。不逮捕特権、免責特権、歳費特権である

・[不逮捕]特権は、分かりやすく「国会議員は、会期中に逮捕される事はない」というもの
⇒警察(行政府に所属)に対抗する為の権利。但し、[現行犯]の場合、及び[所属する院]の許諾がある場合は可能となる

・[免責]特権は、「国会議員は、国会での活動について[法律]上の責任を問われない」というもの
⇒裁判所(司法府)に対抗する為の権利。但し、所属する議院の合議と議決によって[懲罰]を受けたり、最悪[除名]されたりする事はある
※尚、国務大臣になっている場合は、[内閣総理大臣]の同意によって訴追が可能になる

・[歳費]特権は、「国会議員の給料、経費、待遇は良質のものを保障する」というもの
⇒これがないと、貧乏人は国会議員になれなくなる。言い換えれば、金持ちしか国会議員にしかならなくなる。そうなると、金持ち向けの政治ばかり行われるようになってしまう

第3問 問3

生徒Xは、司法権の独立について調べた。日本国憲法における司法権の独立に関する記述として最も適当なものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

①日本国憲法は、職務上の義務に著しく違反したか、職務の内外を問わず裁判官としての威信を著しく損なう非行を行った裁判官については、内閣に罷免権を付与している。
②日本国憲法は、裁判官は憲法と法律にのみ拘束されると規定し、裁判官の職権の独立を保障している。
③日本国憲法は、行政機関が終審として裁判を行うことを認めていないが、例外として、市場の独占や寡占等に関する訴訟については公正取引委員会が終審となることを認めている。
④日本国憲法は、最高裁判所の裁判官の任命について、内閣に任命権を認めているが、国会の同意を必要としている。

#現代日本の統治制度と権力分立 #司法府(裁判所)

第3問 問3 解説

正解:②
復習用資料:政治分野第三章/現代日本の統治制度と権力分立
復習用資料:政治分野第三章/司法府(裁判所)

・極めて素直な知識問題である。こういう基本問題は絶対落とさないようにしたい
⇒四つの選択肢全てが高校の政治経済の範疇になっている。共テに限らず受験は、こういう基礎問題を落とさないところから。難問奇問は二の次三の次である

①日本国憲法は、職務上の義務に著しく違反したか、職務の内外を問わず裁判官としての威信を著しく損なう非行を行った裁判官については、内閣に罷免権を付与している。

・誤文である
⇒内閣(行政府)から裁判所(司法府)に対して可能な抑制(チェック)は、「最高裁判所長官の指名」と「最高裁判所裁判官の選定、任命」である。それ以上は手出しできない。下記にも引用した日本国憲法に基づくチェック・アンド・バランスは、必ずきちんと把握しておこう

②日本国憲法は、裁判官は憲法と法律にのみ拘束されると規定し、裁判官の職権の独立を保障している。

・正文である

③日本国憲法は、行政機関が終審として裁判を行うことを認めていないが、例外として、市場の独占や寡占等に関する訴訟については公正取引委員会が終審となることを認めている。

・誤文である

・公正取引委員会のような準司法機関は、裁判所ではないのに裁判所であるかのように機能する
⇒即ち、準司法機関は行政府(内閣)に所属する行政機関であり、司法府には所属していない。にも拘わらず、特定の法律に関係する事案(公正取引委員会であれば独占禁止法等)に関しては、まるで裁判所であるかのように審判をし、処分を申し渡すことができる
⇒このような、行政府に所属する組織が出す処分を”行政処分”と呼ぶ

・一般に、準司法機関が出す処分が不服である場合、裁判所に申し立てができる
・その場合、一般には地方裁判所から始まり、控訴を繰り返せば、最終的には最高裁判所まで行く
⇒即ち、準司法機関が噛んでくる事案は、“準司法機関で一回”“裁判所で最大三回”の最大四段階で判断される事になる。地方裁判所を一審、高等裁判所を二審、最高裁判所を三審とするとして、準司法機関は事実上ゼロ審の役割を果たす…と表現する事もできるだろう

④日本国憲法は、最高裁判所の裁判官の任命について、内閣に任命権を認めているが、国会の同意を必要としている。

・誤文である
⇒①でも見た三権分立とチェック・アンド・バランスを、再度確認しよう

第3問 問4

生徒Xは、模擬授業の内容を振り返りながら、資本主義経済における政府の役割について次のメモにまとめた。メモ中の空欄[ ア ]〜[ ウ ]に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑧のうちから一つ選べ。

 経済が発展するにつれ、資本主義経済の弊害が顕在化するようになった。そのため、20世紀になると、先進資本主義諸国では、政府が積極的に市場介入を行い、経済政策の実施と社会保障体制の整備とにより[ ア ]が形成されていった。
 その後、1970年代後半から1980年代前半にかけて、政府の財政赤字と経済の低成長を背景に、アメリカやイギリスを中心に、自由な経済活動を重視し、政府の市場への介入の縮小を主張する[ イ ]が台頭することになった。[ イ ]は、公企業の民営化や規制緩和を導く理念とされ、その考え方の背景にあるのが、市場メカニズムに対する[ ウ ]である。
 一方、[ イ ]に基づいた政策が雇用の不安定化や貧困率の上昇をもたらしたとの批判があり、今日では、政府と市場との適切な役割分担が課題となっている。

① ア 夜警国家   イ 修正資本主義   ウ 批判
② ア 夜警国家   イ 修正資本主義   ウ 信頼
③ ア 夜警国家   イ 新自由主義   ウ 批判
④ ア 夜警国家   イ 新自由主義   ウ 信頼
⑤ ア 福祉国家   イ 修正資本主義   ウ 批判
⑥ ア 福祉国家   イ 修正資本主義   ウ 信頼
⑦ ア 福祉国家   イ 新自由主義   ウ 批判
⑧ ア 福祉国家   イ 新自由主義   ウ 信頼

#資本主義

第3問 問4 解説

正解:⑧
復習用資料:経済分野第一章/資本主義

・この試験の第1問の問2のような、大まかな経済史の流れを掴んでいるかを問う問題である
⇒某中世~近現代経済史概観のワークシートの内容は、経済分野を学ぶ上で、基本中の基本となる。必ず押さえておこう

経済が発展するにつれ、資本主義経済の弊害が顕在化するようになった。そのため、20世紀になると、先進資本主義諸国では、政府が積極的に市場介入を行い、経済政策の実施と社会保障体制の整備とにより[ ア ]が形成されていった。

・革命の時代から帝国の時代にかけて、重視された人権は自由権であった
⇒自由権は“政府は黙って座ってろ、俺達国民を自由にしろ”。だから理想とされる国家も“何もしない国家”“最低限の事しかしない国家”たる夜警国家だったし、経済学もまた、自由放任を旨とし、全てを市場メカニズムに委ねんとする古典経済学が主流であった

・これが世界大戦期になると、重視される人権が社会権へと変わる
⇒社会権は“政府は黙って座ってないで立て、俺達国民を助けろ”。だから理想とされる国家も“ゆりかごから墓場まで”、国家が国民の人生の面倒を見る福祉国家となった。経済学もまた、“政府は、デフレならインフレ誘導しろ。インフレならデフレ誘導しろ”“政府は働け、金融政策も財政政策も両方やれ”のケインズ主義が主流となる

・問題文第一段落は明らかに、世界大戦期~冷戦期の社会権ブームの話をしている
・よって、[ ア ]は「福祉国家」である

 その後、1970年代後半から1980年代前半にかけて、政府の財政赤字と経済の低成長を背景に、アメリカやイギリスを中心に、自由な経済活動を重視し、政府の市場への介入の縮小を主張する[ イ ]が台頭することになった。[ イ ]は、公企業の民営化や規制緩和を導く理念とされ、その考え方の背景にあるのが、市場メカニズムに対する[ ウ ]である。

・言うまでもなく、資本主義や資本主義社会とは“現代的な社会”を指す言葉である
⇒大体の国民がどこかの会社の社員で、毎日職場に行って仕事をし、給料を貰って生きている。こういう社会が資本主義社会である。これが逆に中世だと、大体の国民が農民で、自分の土地を持っていて、畑を耕して生活していて…みたいになる
⇒勿論、資本主義の教科書的な定義は“生産手段の私有、という意味での私有財産制”及び“利潤の追求の肯定”が両立する社会、である。が、“それって要するにどんな社会?”となると↑のような説明になる

・革命の時代から帝国の時代のような資本主義社会を、産業資本主義と呼ぶ
⇒自由権が重視され、夜警国家が理想とされ、古典経済学が主流とされた時代は、産業革命に合わせて資本主義社会が登場したばかりであった。この時代の資本主義社会を、こう呼んでいる

・世界大戦期から冷戦中期までのような資本主義社会を、修正資本主義と呼ぶ
⇒社会権が重視され、福祉国家が理想とされ、ケインズ主義が理想とされた時代の資本主義を、こう呼んでいる

・そして1980年代以降、“新しい資本主義”として、新自由主義が台頭する
⇒1980年代以降、重視される人権は再び自由権となった。故に、夜警国家的な“何もしない国家”“最低限の事しかしない国家”が理想とされるようになり、経済学もまた、古典経済学のリバイバルとでも言うべき自由主義的な考え方が台頭する。これが新自由主義である

・上記のような歴史の流れを踏まえていれば、1980年代以降流行った考え方は新自由主義であると分かる
・よって、[ イ ]は「新自由主義」であると分かるだろう

・また、[ ウ ]も「信頼」だと分かるだろう
⇒既に見たように古典経済学は、自由放任を旨とし、全てを市場メカニズムに委ねんとする経済学である。新自由主義が古典経済学のリバイバルとしての側面を持つ事が分かっていれば、新自由主義が「市場メカニズムに対する批判」を持つか「市場メカニズムに対する信頼」を持つか、考えるまでもない

第3問 問5

生徒Xと生徒Yは、模擬授業後、税制について話し合っている。次の会話文中の空欄[ ア ]・[ イ ]に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑥のうちから一つ選べ。

X:K准教授は、税制を構築する上で考慮すべき原則について話していたね。そのうち、課税が経済活動にできるだけ影響しないようにする[ ア ]の原則が気になったよ。この原則に基づけば、働く人の勤労意欲を削ぐことにはならないし、経済活動を大きく妨げることにもならないからいいね。
Y:でも、[ ア ]の原則を満たすことは実際には難しいよ。これは、環境問題について考えてみるとわかるね。
X:そうだね。たとえば、ある企業が生産活動で汚染物質を排出して他の経済主体に損失を与えている場合、その損失の費用を考慮しないで生産活動を行うと、その企業の生産量は、社会全体として望ましい生産量よりも[ イ ]なるよ。
Y:たしかにね。だから、環境税の導入によってその企業が生産量を調整し、汚染物質の排出量が削減できれば、[ ア ]の原則には反するけれど、税によって、企業の経済活動を社会的に望ましい方向へ導くことができるといえるよ。
X:なるほど。それでは、税の望ましい経済効果と果たすべき役割について調べてみよう。

① ア 公平   イ 多く
② ア 公平   イ 少なく
③ ア 中立   イ 多く
④ ア 中立   イ 少なく
⑤ ア 簡素   イ 多く
⑥ ア 簡素   イ 少なく

#税 #国語問題

第3問 問5 解説

正解:③
復習用資料:経済分野第一章/税

・税に関する知識を問う…ように見せかけて、読解力だけで解ける問題である
⇒とは言え、高校の政治経済ではあまり扱わない知識が身に着くので、一応「税」のタグもつけている

課税が経済活動にできるだけ影響しないようにする[ ア ]の原則

・選択肢は「公平」「中立」「簡素」である。言葉の意味をまず確認しよう
公平:すべてのものを同じように扱うこと。判断や処理などが、かたよっていないこと。また、そのさま。
中立:対立するどちらの側にも味方しないこと。また、特定の思想や立場をとらず中間に立つこと。
簡素:簡易で質素なこと。
※公平と中立はデジタル大辞泉から、簡素は現代実用辞典(第二版、講談社)から

・意味から考えて、公平の原則は“誰でも同じような税を納める”みたいな意味になりそうである
・同様に簡素の原則は、“誰にでも分かる簡単な税制にする”みたいな意味になりそうである
・そして中立は、“特定の何かにとって有利、不利になるような税制にしない”になりそうである

・問題文の書き方からすると、[ ア ]には明らかに「中立」が適する
⇒“特定の何かにとって有利、不利になるような税制にしない”から、「課税が経済活動に(中略)影響しない」という話になるし、「この原則に基づけば、働く人の勤労意欲を削ぐことにはならないし、経済活動を大きく妨げることにもならない」のである

~ここから豆知識~
・「公平」「中立」「簡素」という三原則は、現代日本の税制の根幹であるとされている
⇒“どこが簡素やねん言うてみぃ”と言いたくなるぐらい複雑なのが現代日本の税制だし、“消費税とかいう逆進性の塊みたいな税をバリバリかけといて何が公平やねん”ともなるだろうが、お題目としてはそうなっている。ちなみにこの三原則は、日本経済史の戦後混乱期に出てくるシャウプ勧告の内容が元になっている、とも言われている

・「公平」「中立」「簡素」の三原則を、経済学初学者向けに噛み砕いて解説すると以下のようになる
1:公平(Equity)
⇒納税額を、その人の経済力に応じたものにする。具体的には“垂直的公平:その人の経済力に応じて税額を増減する”“水平的公平:同じ経済力の人なら同額を負担する”
2:中立(Neutrality)
⇒税が経済行動に影響を与えない税制にする。言い方を変えれば、“働かない方が得”“投資しない方が有利”等にならないようにする
3:簡素(Simplicity)
⇒納税する側からすれば分かりやすい税制。徴税する側からしても、手間がかからない税制にする
~豆知識終わり~

X:そうだね。たとえば、ある企業が生産活動で汚染物質を排出して他の経済主体に損失を与えている場合、その損失の費用を考慮しないで生産活動を行うと、その企業の生産量は、社会全体として望ましい生産量よりも[ イ ]なるよ。

・選択肢は「多く」「少なく」である。ここはどう考えても、「少なく」であろう
⇒普通に考えて、汚染物質を垂れ流しながら商品を作る工場は、あんまり多くない方がいい。が、“汚染物質を垂れ流してもお咎めなし!”“その汚染物質で人が死のうが何しようが一切関係なし!”であるなら、かつ、その商品で儲かるなら、汚染物質垂れ流し工場は沢山建つし、汚染物質垂れ流し商品は大量に作られるだろう。これは、「社会全体として望ましい生産量よりも」多い状態である

※汚染物質を適切に処理するコストを企業が負担しないと、社会全体としては“本来より作り過ぎ”になるので、望ましい生産量より“多く”なる。だから、“汚染物質を浄化するコストは、工場を経営する企業が払いなさい!”というような法律が作られる…というのは、政治経済の授業でも、“市場の失敗”の“外部不経済”のところでよく見られる解説である

第3問 問6

財政の機能に関心をもった生徒Xと生徒Yは、日本における所得再分配政策によるジニ係数の変化を示した次の模擬授業の資料をみながら話し合っている。後の会話文中の空欄[ ア ]・[ イ ]に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①~④のうちから一つ選べ。

X:再分配効果について、当初所得のジニ係数と、社会保障と税による再分配所得のジニ係数の推移をみてみよう。2002年よりも2021年の方が再分配効果は[ ア ]ことがわかるね。それから、どの年も社会保障が中心となって所得再分配機能を果たしているね。
Y:それに関して、模擬授業での租税負担率の国際比較では、日本は先進諸国に比べると、個人所得課税の負担率が低いことを学習したね。もし、所得格差を小さくするために現在の所得課税の税率の構造を変えるとしたら、最高税率を[ イ ]と、再分配効果は高くなるね。
X:それも一案だね。高齢化が進行する中、格差が固定化しないように、所得再分配機能のあり方を考える必要があるかもね。

① ア 大きい   イ 引き上げる
② ア 大きい   イ 引き下げる
③ ア 小さい   イ 引き上げる
④ ア 小さい   イ 引き下げる

#貧富の格差を表す指標 #国語問題

第3問 問6 解説

正解:①
復習用資料:経済分野第一章/貧富の格差を表す指標

・貧富の格差を表す指標、と言うか、ジニ係数についての知識があれば後は国語の問題である
⇒具体的には、“ジニ係数は0から1の数字であり、0に近ければ平等、1に近ければ格差社会である”という知識さえあればいい。後は国語の問題として解ける

X:再分配効果について、当初所得のジニ係数と、社会保障と税による再分配所得のジニ係数の推移をみてみよう。2002年よりも2021年の方が再分配効果は[ ア ]ことがわかるね。それから、どの年も社会保障が中心となって所得再分配機能を果たしているね。

・図を見ると、●は常に高く、△と■は常に低い
・また、●は緩やかながら上昇していく傾向があるのに対して、△と■はほぼ横ばいである
●:当初所得のジニ係数
△:社会保障による再分配所得のジニ係数
■:社会保障と税による再分配所得のジニ係数

・以上の事から、以下のような事実が分かる
1:(少なくとも所得に関しては、)社会保障や税は、格差の是正に効果がある
2:社会保障や税による是正前で見ると、ゼロ年代よりも20年代の方が、格差が広がっている
3:2の事実があるにも拘わらず、社会保障や税による再分配後の格差は広がっていない

⇒つまるところ、2021年は本来、2002年に比べて格差が広がっている筈にも拘わらず、社会保障や税による格差是正後の格差は広がっていない。これを、社会保障や税による格差是正の「効果」という側面から見れば、2021年の方が「再分配効果は高い」と言えるだろう

もし、所得格差を小さくするために現在の所得課税の税率の構造を変えるとしたら、最高税率を[ イ ]と、再分配効果は高くなるね。

・ところで、格差是正の為に使われる「税」とは何か? 言うまでもなく累進課税であり、所得税である
⇒“金持ちからは沢山税を取る、貧乏人からはあんまり取らない”が累進課税である。現代日本の場合、この累進課税制度を採っている税の代表例が所得税である

・よって、所得税による格差是正効果(再分配効果)を高めたいなら、所得税の累進性をより高めればよい
⇒言い方を変えれば、“今は金持ちからでも最大、収入の45%しか取っていない。これを、70%とか90%とかにすればいい”というような話である

・よって、「最高税率を引き上げる」と、格差是正効果は上がる筈である

※“今や消費税よりも逆進性が高いと話題になってる社会保障で、こんなに格差が是正される訳ないだろ!!”と思うかもしれないが、ジニ係数は“所得”つまり“収入”しか見ないので…“貯金もロクにできない若者から収奪した社会保険料が、たっぷり資産のある年金生活者の年金として支給される”みたいな現実は一切反映されないのである

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