令和七年度 大学入学共通テスト本試験 政治・経済 第1問 問3
問題
地域社会のルールに関して、生徒Aと生徒Bは、都道府県や市町村には、それぞれ地域独自のルールがあるということを学び、自分たちが住むP市の条例について調べた。次の会話文中の空欄[ ア ]〜[ ウ ]に入る語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑧のうちから一つ選べ。
A:P市では、屋外広告物条例を作るために、条例案について広く住民の意見や情報を求める[ ア ]の手続きを始めたそうだよ。
B:条例を制定する場合にも実施されることがあるんだね。どんな内容の条例案なの?
A:どうやら、屋上広告は全面的に禁止、立て看板やのぼり旗も駅前でしか認められないみたい。うちのレストランはわかりにくい場所にあるから、あちらこちらに看板や広告を出しているんだよね。それらを撤去すると、お客さんが減ってしまうんじゃないかと心配だな。広告を規制するP市の条例案は、表現の自由や[ イ ]を侵害することになるんじゃないかな。
B:P市は、良好な景観を享受する住民の利益を重視しているんだろうね。環境権そのものは、[ ウ ]や生存権を根拠に主張されているようだけど、大気や水などの自然環境だけでなく、景観利益の保護も含むかどうかは議論があるね。うーん、基本的人権を保障しながら、同時に良好な景観を維持するのは案外難しいな。
① ア パブリックコメント イ 労働基本権 ウ 幸福追求権
② ア パブリックコメント イ 労働基本権 ウ 請願権
③ ア パブリックコメント イ 営業の自由 ウ 幸福追求権
④ ア パブリックコメント イ 営業の自由 ウ 請願権
⑤ ア マニフェスト イ 労働基本権 ウ 幸福追求権
⑥ ア マニフェスト イ 労働基本権 ウ 請願権
⑦ ア マニフェスト イ 営業の自由 ウ 幸福追求権
⑧ ア マニフェスト イ 営業の自由 ウ 請願権
解説
正解:③
復習用資料:政治分野第一章/政党
復習用資料:政治分野第二章/新しい人権
復習用資料:政治分野第二章/日本国憲法と人権(自由権)
・文章が長ったらしいだけの、簡単な知識を問う問題である。こういうのは落とさないようにしたい
条例案について広く住民の意見や情報を求める[ ア ]の手続きを始めたそうだよ
・選択肢は「パブリックコメント」か「マニフェスト」である
・報道を見ている人は一発でパブリックコメントと分かる
・報道を見ていない人も、「マニフェスト」が明らかに違うというのは分かる筈である
⇒公共や政治経済の“政党”のところでやる内容だが、“私が当選したらこういう事をします”というのを公約と言うが、その公約の中でも、「我々が政権を取ったら」という形を採り、尚且つ財政的な裏付けや実施期限等が示されているものをマニフェスト(政権公約)と呼ぶ
・よって、[ ア ]は「パブリックコメント」である
うちのレストランはわかりにくい場所にあるから、あちらこちらに看板や広告を出しているんだよね。それらを撤去すると、お客さんが減ってしまうんじゃないかと心配だな。広告を規制するP市の条例案は、表現の自由や[ イ ]を侵害することになるんじゃないかな。
・選択肢は「労働基本権」か「営業の自由」である
・よって、広告の規制が“労働者の権利”と“経営者の自由”どちらを侵害するか考えればよい
・上記に引用したAさんの発言をもう一度読んでみよう。これは明らかに、経営者の発想である
⇒労働者(社員)にとってみれば、客は少なければ少ない方がいい。レストランに来る客が増えたところで給料は増えないし、単に忙しくなるだけである。最悪、潰れても転職すればよい。一方、経営者にとってみれば、客が増えれば増えるほど儲かる。逆に客が減って店が潰れるとなれば、経営者は莫大な借金を背負う可能性も出てくる。となると、“広告が減ったら客が減るかもしれない、心配”というのは、経営者の発想であると分かる
・つまり広告の規制は、「営業の自由」の侵害にはなり得ても、「労働基本権」の侵害にはなり得ない
⇒言い方を変えれば、“好きな場所で好きな店を経営していい”という自由の侵害にはなり得ても、労働者の権利の侵害にはならない
・よって、[ イ ]は「営業の自由」である
環境権そのものは、[ ウ ]や生存権を根拠に主張されている
・環境権は、いわゆる“新しい人権”の一種である
・そして“新しい人権”は、一般に、“幸福追求権”を根拠に展開される事が多い
⇒要するに日本国憲法制定時は存在しなかった人権を、一般に“新しい人権”と呼ぶ。日本国憲法制定後の社会の変化の中で、“憲法には書いていないが、憲法の理念を考えれば認められるべきでしょう”となって生まれてきた種々の人権が“新しい人権”と言える。その性格から、新しい人権は日本国憲法に明記されていないが、全く根拠がない訳でもなく、一般的には日本国憲法十三条の幸福追求権が根拠となっている
・よって、[ ウ ]は選択肢を見るまでもなく「幸福追求権」である