令和七年度 大学入学共通テスト追試験 公共、政治・経済 第3問 問2
問題
全国民の代表に関して、生徒Xと生徒Yは、模擬授業で配布された次の資料を参考に、日本国憲法における国会議員と選出母体との関係について議論している。後の会話文中の空欄[ ア ]に当てはまる記述と空欄[ イ ]に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜④のうちから一つ選べ。
資料 全国民の代表と命令委任の禁止
〇中世ヨーロッパでは、貴族、聖職者、市民などの身分別に部会がおかれる身分制議会が存在した。この身分制議会において、議員は選出母体の代表とされ、その職務遂行に際しては選出母体からの指示に拘束され、この指示を守らない場合には召還・解任される命令委任の関係が成立していた。
〇近代以降の議会では、議員は選出母体の代表ではなく、全国民の代表とされ、命令委任は禁止されるとの考えが普及した。議員は、選出母体からの指示ではなく、自らの信念に従い、討論を通じて全国民の福利を追求すべきだと考えられるようになった。
会話文
X:J教授は、日本国憲法は国会議員を全国民の代表としており、資料にある命令委任の禁止を継承しているとする考えが有力だと言っていたね。
Y:代表者の選出母体からの独立性を強調する命令委任の禁止の考えに照らしてみれば、今の日本では[ ア ]ことがよく理解できるね。
X:J教授の説明では、日本国憲法では、国会議員が全国民の代表として活動できるために不逮捕特権や免責特権などが認められているとのことだったね。
Y:そのうち、[ イ ]は、議院の承認があるときなど一定の場合を除いて、原則として会期中にのみ認められるんだね。
[ ア ]に当てはまる記述
a議院による所属議員の除名が認められている
b有権者による国会議員の解職請求が制度化されていない
[ イ ]に当てはまる語句
c不逮捕特権
d免責特権
① ア―aイ―c ② ア―aイ―d ③ ア―bイ―c ④ ア―bイ―d
解説
・前半は国語の問題、後半は知識問題、という複合問題である
・より正確に言うと、↓のようになっている
[ ア ]:選択肢ab共に正文で、問題文全体を読んで文脈に沿うものを選ぶ
[ イ ]:知識で解く ※なお、問うている知識は結構マニアック
Y:代表者の選出母体からの独立性を強調する命令委任の禁止の考えに照らしてみれば、今の日本では[ ア ]ことがよく理解できるね。
[ ア ]に当てはまる記述
a議院による所属議員の除名が認められている
b有権者による国会議員の解職請求が制度化されていない
・既に見たように、選択肢abはどちらも正文であり、文脈で解く事を求められる
・ここで重要になるのは、「命令委任の禁止」に沿う制度設計はabどちらか、という話である
身分制議会において、議員は選出母体の代表とされ、その職務遂行に際しては選出母体からの指示に拘束され、この指示を守らない場合には召還・解任される
・命令委任とは、上記引用文のような考え方である。議員は、選出母体の意に反する場合、クビになる
X:J教授は、日本国憲法は国会議員を全国民の代表としており、資料にある命令委任の禁止を継承しているとする考えが有力だと言っていたね。
Y:代表者の選出母体からの独立性を強調する命令委任の禁止の考えに照らしてみれば、今の日本では[ ア ]ことがよく理解できるね。
・そしてこの会話の要旨は、“命令委任のような考え方はダメ、ってのが現代日本社会だよ“だと言える
⇒現代日本には「命令委任」がない、言い方を変えれば、“議員は、選出母体の意に反する場合、クビになる”がない、という話である
・よって、会話文に沿う選択肢はb、「有権者による国会議員の解職請求が制度化されていない」である
Y:そのうち、[ イ ]は、議院の承認があるときなど一定の場合を除いて、原則として会期中にのみ認められるんだね。
[ イ ]に当てはまる語句
c不逮捕特権
d免責特権
・アと違って、完全に知識を問うてくる部分である(しかもマニアック)
・会期中にのみ発揮される議員特権は、不逮捕特権である
・よって、イはcである
ついでに議員特権をおさらいしちゃおうの会
・公共や政治経済で出てくる議員特権は、主に三つ。不逮捕特権、免責特権、歳費特権である
・[不逮捕]特権は、分かりやすく「国会議員は、会期中に逮捕される事はない」というもの
⇒警察(行政府に所属)に対抗する為の権利。但し、[現行犯]の場合、及び[所属する院]の許諾がある場合は可能となる
・[免責]特権は、「国会議員は、国会での活動について[法律]上の責任を問われない」というもの
⇒裁判所(司法府)に対抗する為の権利。但し、所属する議院の合議と議決によって[懲罰]を受けたり、最悪[除名]されたりする事はある
※尚、国務大臣になっている場合は、[内閣総理大臣]の同意によって訴追が可能になる
・[歳費]特権は、「国会議員の給料、経費、待遇は良質のものを保障する」というもの
⇒これがないと、貧乏人は国会議員になれなくなる。言い換えれば、金持ちしか国会議員にしかならなくなる。そうなると、金持ち向けの政治ばかり行われるようになってしまう