令和七年度 大学入学共通テスト追試験 公共、政治・経済 第3問 問4
問題
生徒Xは、模擬授業の内容を振り返りながら、資本主義経済における政府の役割について次のメモにまとめた。メモ中の空欄[ ア ]〜[ ウ ]に当てはまる語句の組合せとして最も適当なものを、後の①〜⑧のうちから一つ選べ。
経済が発展するにつれ、資本主義経済の弊害が顕在化するようになった。そのため、20世紀になると、先進資本主義諸国では、政府が積極的に市場介入を行い、経済政策の実施と社会保障体制の整備とにより[ ア ]が形成されていった。
その後、1970年代後半から1980年代前半にかけて、政府の財政赤字と経済の低成長を背景に、アメリカやイギリスを中心に、自由な経済活動を重視し、政府の市場への介入の縮小を主張する[ イ ]が台頭することになった。[ イ ]は、公企業の民営化や規制緩和を導く理念とされ、その考え方の背景にあるのが、市場メカニズムに対する[ ウ ]である。
一方、[ イ ]に基づいた政策が雇用の不安定化や貧困率の上昇をもたらしたとの批判があり、今日では、政府と市場との適切な役割分担が課題となっている。
① ア 夜警国家 イ 修正資本主義 ウ 批判
② ア 夜警国家 イ 修正資本主義 ウ 信頼
③ ア 夜警国家 イ 新自由主義 ウ 批判
④ ア 夜警国家 イ 新自由主義 ウ 信頼
⑤ ア 福祉国家 イ 修正資本主義 ウ 批判
⑥ ア 福祉国家 イ 修正資本主義 ウ 信頼
⑦ ア 福祉国家 イ 新自由主義 ウ 批判
⑧ ア 福祉国家 イ 新自由主義 ウ 信頼
解説
正解:⑧
復習用資料:経済分野第一章/資本主義
・この試験の第1問の問2のような、大まかな経済史の流れを掴んでいるかを問う問題である
⇒某中世~近現代経済史概観のワークシートの内容は、経済分野を学ぶ上で、基本中の基本となる。必ず押さえておこう

経済が発展するにつれ、資本主義経済の弊害が顕在化するようになった。そのため、20世紀になると、先進資本主義諸国では、政府が積極的に市場介入を行い、経済政策の実施と社会保障体制の整備とにより[ ア ]が形成されていった。
・革命の時代から帝国の時代にかけて、重視された人権は自由権であった
⇒自由権は“政府は黙って座ってろ、俺達国民を自由にしろ”。だから理想とされる国家も“何もしない国家”“最低限の事しかしない国家”たる夜警国家だったし、経済学もまた、自由放任を旨とし、全てを市場メカニズムに委ねんとする古典経済学が主流であった
・これが世界大戦期になると、重視される人権が社会権へと変わる
⇒社会権は“政府は黙って座ってないで立て、俺達国民を助けろ”。だから理想とされる国家も“ゆりかごから墓場まで”、国家が国民の人生の面倒を見る福祉国家となった。経済学もまた、“政府は、デフレならインフレ誘導しろ。インフレならデフレ誘導しろ”“政府は働け、金融政策も財政政策も両方やれ”のケインズ主義が主流となる
・問題文第一段落は明らかに、世界大戦期~冷戦期の社会権ブームの話をしている
・よって、[ ア ]は「福祉国家」である
その後、1970年代後半から1980年代前半にかけて、政府の財政赤字と経済の低成長を背景に、アメリカやイギリスを中心に、自由な経済活動を重視し、政府の市場への介入の縮小を主張する[ イ ]が台頭することになった。[ イ ]は、公企業の民営化や規制緩和を導く理念とされ、その考え方の背景にあるのが、市場メカニズムに対する[ ウ ]である。
・言うまでもなく、資本主義や資本主義社会とは“現代的な社会”を指す言葉である
⇒大体の国民がどこかの会社の社員で、毎日職場に行って仕事をし、給料を貰って生きている。こういう社会が資本主義社会である。これが逆に中世だと、大体の国民が農民で、自分の土地を持っていて、畑を耕して生活していて…みたいになる
⇒勿論、資本主義の教科書的な定義は“生産手段の私有、という意味での私有財産制”及び“利潤の追求の肯定”が両立する社会、である。が、“それって要するにどんな社会?”となると↑のような説明になる
・革命の時代から帝国の時代のような資本主義社会を、産業資本主義と呼ぶ
⇒自由権が重視され、夜警国家が理想とされ、古典経済学が主流とされた時代は、産業革命に合わせて資本主義社会が登場したばかりであった。この時代の資本主義社会を、こう呼んでいる
・世界大戦期から冷戦中期までのような資本主義社会を、修正資本主義と呼ぶ
⇒社会権が重視され、福祉国家が理想とされ、ケインズ主義が理想とされた時代の資本主義を、こう呼んでいる
・そして1980年代以降、“新しい資本主義”として、新自由主義が台頭する
⇒1980年代以降、重視される人権は再び自由権となった。故に、夜警国家的な“何もしない国家”“最低限の事しかしない国家”が理想とされるようになり、経済学もまた、古典経済学のリバイバルとでも言うべき自由主義的な考え方が台頭する。これが新自由主義である
・上記のような歴史の流れを踏まえていれば、1980年代以降流行った考え方は新自由主義であると分かる
・よって、[ イ ]は「新自由主義」であると分かるだろう
・また、[ ウ ]も「信頼」だと分かるだろう
⇒既に見たように古典経済学は、自由放任を旨とし、全てを市場メカニズムに委ねんとする経済学である。新自由主義が古典経済学のリバイバルとしての側面を持つ事が分かっていれば、新自由主義が「市場メカニズムに対する批判」を持つか「市場メカニズムに対する信頼」を持つか、考えるまでもない