経済分野第一章 経済の仕組み

前説

 経済は、一般的な感覚とは異なる。それこそ、家計とは異なる。無論、家計と同じ感覚でいい場合もあるが、家計と同じ感覚だと話がおかしくなる場合も多い。ここでは、いわゆる合成の誤謬というものを例に挙げよう。
 ある企業の業績が悪化したとする。そういう時は、まずは無駄をなくして節約する、つまり支出を抑えようとするのが一般的である。その為に、不要な社員を解雇したり、社員の給料を減らしたりするというのも一般的な対応である。この対応は、「支出を抑える」という家計的な感覚によるものである。そしてまた、その観点から見てこの対応は合理的なものであり、実際、少なくとも短期的には会社によい効果をもたらすだろう。
 しかし、これが一企業の対応に留まらないとしたら。
 国中のあらゆる企業が、社員を解雇したり、社員の給料を減らしたりしたら、どうなるだろうか。
 企業の社員とは、企業に勤めて商品を生産する労働者であると同時に、市場に流通する商品を買う消費者でもある。そして企業が生産する商品の大多数は、この労働者兼消費者が購入する。企業の経営者は金持ちなので、労働者兼消費者の何倍も消費するが給料の割には使わないし、そもそも数が少なすぎる。やはり大多数の商品は、労働者兼消費者によって購入される。
 さて、この労働者兼消費者の収入がなくなったり(解雇)、減ったり(給料減)すれば、どうなるか。当然、必要なもの以外買わなくなる。と言うか、買えなくなる。つまり、企業の生産する商品が、売れなくなってしまう。こうして、企業の商品は売れなくなり、業績は悪化する。
 「支出を抑える」という行為は、少なくとも短期的に見れば効果がある筈だし、また合理的な行動であった筈である。しかし、国中のあらゆる企業が行う事によって、むしろ自分の首を絞める結果に陥ってしまう。このようなものを、「合成の誤謬」という。
 このように、経済は一般的な感覚で考えると大きな間違いを起こしてしまう。先の例は、1980年代の新自由主義の台頭後(自由権重視が再び強まった後)、実際に起きている事である。このような間違いは、一つには、人々が経済を一般的な感覚で、家計のような感覚で捉えてしまったからこそ起きている。だからこそ、この経済分野で、経済についてしっかり学んでほしい。

※経済学の領域では、「“最終的にその商品を使う人”が商品を購入する」ことを指して消費と呼ぶ場合が多い。他の意味でも使うが、政治経済の授業とかで「消費」が出てきたら基本この意味である。「消費者」という言葉も、この意味での「消費をする人」という言葉だと考えるとよい

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