財政、予算、会計

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●前説

・ここまで、現代日本のような資本主義国家の経済の仕組みを見てきた
・例えば、資本主義下の市場経済を完全に放置していると、市場の失敗が起こる
⇒「独占市場の発生」、「公共財が存在しなくなる」、「貧富の格差拡大」、「外部経済の発生」
・また、資本主義下では不況の発生は避けられない。だから「景気対策」が必要
⇒だから、政府が経済に介入して景気の過熱を抑え、不況から素早く脱せるようにしてやる

・「独占市場の発生」や「外部経済の発生」は、どっちかと言うと政治的な対処を行う事になる
⇒独占市場については独占禁止法の制定が代表例だし、外部経済も公害対策基本法の制定が代表例
・一方、「公共財が存在しなくなる」「貧富の格差拡大」「景気対策」は経済的な対処が必要

・「公共財が存在しなくなる」の対処:財政政策による対処
・「貧富の格差拡大」の対処:財政政策による対処
・「景気対策」:財政政策、及び金融政策による対処
・本節は財政政策について見ていく
※金融政策は、次節で見る

●財政

・国は、財政政策によって「公共財が存在しなくなる」「貧富の格差拡大」の対処と「景気対策」を行う
・財政政策には、主に三つの機能がある。それぞれ以下のように整理できる
・「公共財が存在しなくなる」の対処:【資源配分調整機能】
・「貧富の格差拡大」の対処:【所得再分配機能】
・「景気対策」:【経済安定化機能(景気調整機能)】

○資源配分調整機能

・民間企業は、普通、儲からない事はしない
・故に、資源(元手)を、儲からない公共財に向ける事はない
・だから国が【公共財】や【公共サービス】を(赤字であろうと)提供する
⇒言い換えれば、資源の配分を政府が調整する

○所得再分配機能

・資本主義は放っておくと、金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏になっていく
⇒結局金持ちは貧乏人から搾り取るのが一番儲かるので…これを放っておくと、治安悪化(真面目に働いても金持ちに搾取されるなんて馬鹿らしい。犯罪者になるわ)、革命(金持ちは皆殺しだー!)といった事態が起こる。その実例が、令和二年に起きた米国のBLM騒動やかつてのロシア革命

・これを防ぐ為、国は【累進課税】を行う
⇒金持ちからは沢山、貧乏人からはちょっとだけ、税金を集める。現代日本の場合は所得税がこれ。大体、年収200万円以下の人は5%を、年収4000万円以上の人は45%を税として支払う事になっている
・そして、【社会保障】関係にカネを使う
⇒生活保護、雇用保険(失業した時とかにカネが支払われる)、国民健康保険等
・こういった、累進課税や社会保障を行うのが所得再分配機能である
⇒沢山稼いでなくても(所得が低くても)、沢山稼いでいる人(所得が多い人)と同じように暮らせるように再分配する、という機能

・ちなみに、【小さな政府路線】の人、つまり自由権重視の【自由主義者】にとって、この機能は悪である
・累進課税や社会保障は、廃止すべきものだという話になる
⇒その人が自由な経済活動で稼いだカネは、その人が使えるべきだ。社会保障なんて、無能な貧乏人の為に有能な金持ちのカネを使うな、という形になる。自由権重視の伝統が強い米国は、だから社会保障が貧弱。特に健康保険は本当にボロボロで、虫歯に十万、出産に百五十万、盲腸の手術に二百万、とか普通にかかる。なので貧乏人どころか普通の人でも、ちょっとでかい病気にかかっただけで人生が終わる。金持ちなら大丈夫だけど…

○経済安定化機能

・景気がいい時は、「インフレ」「物価上昇・貨幣価値下落」「需要過剰・供給過少」
⇒つまり、景気がいい時は貨幣価値を上げたり、需要を減らしたりすればよい
・景気が悪い時は、「デフレ」「物価下落・貨幣価値上昇」「需要過少・供給過剰」
⇒つまり、景気が悪い時は貨幣価値を下げたり、需要を増やしたりすればよい

・基本的に、貨幣価値を上げたり下げたりするのは、金融政策でやる
・財政政策でやるのは、需要を増やしたり減らしたりする方
・需要とは要するに、消費者が持っているカネ、及び「カネを使いたい」と思う心である
・消費者というのはつまり国民
・つまり、国民の給料を増減させたり、雇用を増減させたりすればいい訳である

・国民の給料や雇用を増減させる経済安定化機能は、二つの側面がある
・ひとつは【補整的(伸縮的)財政政策】。片仮名だと【フィスカル・ポリシー】
⇒増税したり減税したり、公共事業をやったりするような財政政策
・もうひとつは、【ビルト・イン・スタビライザー】
⇒景気がいい時は勝手に給料が減り、悪い時は勝手に給料が増える、というような財政政策を常にやっておく…というもの。累進課税と雇用保険(失業した時とかにカネが支払われる)が代表選手

財政政策まとめ

・前掲の表を左から見ていく。「財政政策でやるべき事」まではもう見たので、その右から

・不景気の時は減税する。減税すると、国民が使える給料が増える
・好景気の時は増税する。増税すると、国民が使える給料が減る
・不景気の時は公共事業を増やす。増やすと、国民の雇用が増える
・好景気の時は公共事業を減らす。減らすと、国民の雇用が減る

・不景気の時は、当然だが国民の収入が減る。収入が減ると、低い税率で税を払う人が増える
⇒減税してないのに減税したのと同じ事になり、国民が使える給料が増える
・好景気の時は、当然だが国民の収入が増える。収入が増えると、高い税率に引っかかる人が増える
⇒増税してないのに増税したのと同じ事になり、国民が使える給料が減る

・不景気の時は、当然だが失業者が沢山出る。失業者が多いと、雇用保険から手当を受け取る人が増える
⇒本来失業して給料ゼロになるところが、手当でカネを貰えたという人が増える。雇用保険によって、国民の手持ちのカネが大きく底上げされる。つまり、給料が増えたのと同じ効果がある
・好景気の時は、当然だが失業者が少ない。失業者が少ないと、雇用保険から手当を受け取る人も減る
⇒本来失業して給料ゼロになるところが、手当でカネを貰えたという人が減る。雇用保険によって、国民の手持ちのカネが底上げされるという事も少ない

・ちなみに、国の収入の大半は税金である
・こうやって財政政策を概観すると、不景気の時は税収を減らし、好景気の時は税収を増やすと分かる
・つまり、不景気の時は【財政赤字】、好景気の時は【財政黒字】になるべきだと分かる
⇒不景気の時に「財政再建」とか言って財政黒字を目指したら経済が死にますよ、という話が改めて確認できる話。ちなみに赤字財政の事を【積極財政】、政府の財政が「収入=支出」な状態を目指す事を【均衡財政】と言う場合もある

・尚、好景気の時の増税を、景気対策でなく「財政黒字を目指す」観点から見た場合、注意すべき点もある
⇒[ラッファー曲線]というものなのだが、要するに「増税し過ぎると、それはそれで税収が減りますよ」という理論。実際、税金が高過ぎると真面目に働くのも馬鹿らしいし、脱税も増える
※基本的には[反ケインズ]派の理論。レーガン政権期の、サプライサイドエコノミクスの勃興の中で提唱された

●予算と会計

・毎年はじめの通常国会で予算が決まる…というのは多分中学公民でやった知識
・この、国の予算を国会で決めなければいけないというのを[財政国会中心主義]という
⇒実際のところ、予算案を作っているのは財務省。別に政治家が予算案を作ってもいいのだが、その技能を持つ政治家がいない為に予算案は財務省が作っている。故に、政治家自身が「赤字財政で景気刺激したい」と思っていても、財務省を動かせなければ何もできない。ちなみに日本の財務省は、均衡財政・財政黒字絶対主義とでも言うべき存在なので…
・この話はともかくとして、予算はいくつかの種類に分けられる。詳しく見てみよう

○いつ決めた予算かでの分類

・ある年の予算は、【四月一日】から翌年の【三月末】までで組む
※ちなみに、四月一日までに予算が決まらなかった場合、前年度を参考に【暫定予算】を組む

・毎年はじめの通常国会で決まった予算を、【本予算(当初予算)】と言う
・とは言え、予測不能の事態というのは絶対起こる
・例えば地震が起きたら、被災した地域の復興資金が必要である
・このように、本予算を決めた後に追加で予算を組む必要が出てくる場合がある
・こういう予算を【補正予算】と言う
・補正予算の中でも、新項目を付け足すのが【追加予算】
・補正予算の中でも、ある項目からある項目へ資金を流用するのが【修正予算】

○どの会計かでの分類

・予算は、大きく三つの会計に分けて作られる
・【一般会計】【特別会計】【政府関係機関予算】

・政府の収入の中には、「こういう用途に使え」と決まっているものがある
⇒「この税金による収入は森林整備にしか使っちゃいけません」みたいな奴。こういう「使い道の決まっている収入」を【特定財源】という。何にでも使っていいものは【一般財源】
・こういう収入と支出は、特別会計と言ってそれ専用の会計を作る
・また、政府が全額出資している公企業については、政府関係機関予算という専用の会計を作る
・特別会計と政府関係機関予算に入るもの以外は、全ての収入と支出を一般会計で処理する
⇒当然、一般会計が主要な予算となる。特別会計と政府関係機関予算は補助的なもの

○一般会計の様子

・では、政府予算の主役となる一般会計の、収入と支出はどんな状態になっているか?
・収入は、【租税】が一番多く、次いで【国債】が多い。この両者で95%とかある
⇒バブル崩壊後の長期の不況で、税収は伸び悩んでいる。【所得税】や【法人税】の減税もしているから余計
・支出は、【社会保障関係費】が一番多い。次いで【国債費】、続いて【地方交付税交付金】が多い
⇒高齢化社会で、社会保障関係費が増える一方
・また、基本的には「税収<支出」という状況が続いており、その補填に国債発行が慢性化している
※ちなみに、税収と支出どっちが高いか、というのを【プライマリーバランス】と呼ぶ事もある

・この財政赤字の慢性化に、政治家や国民は危機感を抱いている
⇒皆社会科が嫌いなので、「いやそら不況が長引いてるんだから赤字になるでしょ。むしろもっとガツンと赤字にして景気回復させたら?」とはならず、「このままじゃ国が破産する!」「財政黒字にしなきゃ!」となった

・1997年、橋本内閣は[財政構造改革法]を制定した
⇒この法律により、「景気対策より財政再建、財政黒字化が優先」という態度が鮮明となった
・翌1998年、小渕内閣は[財政構造改革凍結法]を制定した
⇒「不況なのに財政黒字化とかやったら経済死ぬぞ」という事で、国債発行して公共事業やろう、というような路線に方針転換した。その為小渕内閣(と続く小泉内閣)期は経済が回復の兆しを見せた時期となった
※ちなみに、2001年からの小泉内閣期は、財政再建へ向けた緊縮財政が加速した。公共事業費は一気に10%減り、また、【特殊法人】の廃止や民営化、【規制緩和】といった、いわゆる【構造改革】を行っている

○財政投融資

・予算ではないが【第二の予算】と呼ばれるものに、【財政投融資】がある
⇒かつては一般会計の【50%】程度の額があった。そこで第二の予算と呼ばれた
・これは要するに、国が行う金融活動である
⇒国が投資したり、国が融資したりする。主に、公共性の高い事業(それこそ道路を作るとかダムを作るとか)に投資・融資する
・昔は、投資や融資の元手として郵便貯金とかを使っていた
※昔は、郵便は国営事業だった。なので、郵便の銀行にあたる郵便貯金も、当時は国営だった
・これが小泉内閣期までのいわゆる構造改革によって、使えなくなった
⇒財政投融資資金の調達には【市場原理】が導入された。具体的には、特殊な公債によって資金を集める。具体的には国債の一種にあたる【財投債】や、公企業が発行する社債にあたる【財投機関債】がある。実は、奨学金をやっている日本学生支援機構(独立行政法人)なんかも財投機関債を発行している

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