今日的な福祉問題

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※地域共生社会問題は令和六年八月に追加されました。授業動画はまだ作成されていません

●前説

・ここでいう福祉は、「人々が幸福に生きる」という一般的な意味の方
・今日的な福祉問題としては、少子高齢化を含む人口問題と、これに付随する高齢者福祉の問題が代表例

●人口問題

・先進国は何処も少子高齢化の傾向にある
・現代日本も例に漏れず、と言うか、世界【一位】の高齢化率を誇る(誇らなくていい)
・少子高齢化は「産まれる子供が少なくなる」「老人が増える」事によって進行する

・「老人が増える」は、まず若者が少なくなれば当然、相対的に老人は増えるというのが一つ
・医療技術の進歩や公衆衛生の向上による長寿化が、もう一つ理由として挙げられる
・一方、少子化については「そもそも何で少子化するのか」という点になかなか結論が出ない

・例えば現代日本では、「若者の貧困化」がよく挙げられる
⇒新自由主義の進展により、人口の1%にあたる超富裕層が更に金持ちになり、残りの99%は皆貧乏になった。既得権益を持たない若者は、特に貧乏になった。家を買うなんてもっての外で、そもそも正社員になれるかどうかすら怪しく、正社員になれてもブラック労働が蔓延。賃金は時給換算すると最低賃金以下も多々…みたいな。これで結婚して子供作ろうと思う方が凄い
・ただ、じゃあ「若者の貧困化」だけが本当に原因なのか? と言うと疑問もある
⇒例えばスウェーデン王国では、シングルマザー含め、誰でも子育てができるように出産・育児支援に力を入れている。出産費用は無料、教育費用は大学まで全部無料、待機児童はほぼゼロなぐらいの恵まれた保育園環境、産休育休制度も充実…とこの上なく恵まれている。しかし出生率は低い。日本ほど低くはないが、まぁこの程度じゃ人口は減っていくし高齢化は止まりませんよねぐらいである。また、シングルマザー含めて誰であっても出産育児が手軽にできる、とした結果、一部のイケメンに多くの女性が群がり子供を産むという実質的な一夫多妻制になってしまっている

・このように、なかなか原因は特定できない
・複数の原因が複合して影響している可能性も高い
・ただ基本的には、文明化と言うか、人権意識が行き渡ると出生率が下がる傾向にある
⇒なので個人的な見解としては、「そもそも出産育児という行為そのものが、親の人生を犠牲にする非人道的なものだというのが、人権という意識の浸透によりバレてしまった」から出生率が下がっているのではないかと思っている。昔なら、子供は労働力だったので積極的に出産して労働させていたが、今はそういう非人道的な事はしない。「人道的とは何かが浸透した結果、出産育児が非人道的行為になってしまった」のではないかと考えている
※皆さんも、どうして誰も子供を産もうと思わないのか、自分なりに調べ考えてみるのはいい事でしょう

○少子化

・人口問題は、人口が増える、減る、というのを問題にする
・この時、【合計特殊出生率】がいくつか、というのが分かりやすい指標になる
⇒一人の女性が、生涯の内に出産する子供の平均人数。人間の男女比は普通1:1と考えると、これが2であれば、理論上人口は横ばいとなる
・日本の場合、2005年に【1.26】という記録的低出生率を記録した
・その後多少回復はしたが、1.5を下回るレベルで推移している

・日本の合計特殊出生率が2を割るようになったのは、1970年代後半から
・つまり、福祉とかそういうものを「不要なコスト」と見做すようになった1980年代からが本番
⇒そんな時期に、出産とか子育ての支援を手厚くしよう、なんて考える筈がない。少子化対策は後手後手となった
・合計特殊出生率が1.5を割った1990年代から、少子化が政治問題として取り上げられるようになる
・1994年には【エンゼルプラン】という子育て支援政策が実施される
⇒1999年には、【新エンゼルプラン】へと発展する
・では、これらの政策は効果があったのか? 出生率はずっと低いままなのでお察しください

・具体的に何が駄目だったのか見る為に、新エンゼルプランの「主な内容」を見てみよう
~ここから引用~
 1.保育サービス等子育て支援サービスの充実
 2.仕事と子育ての両立のための雇用環境の整備
 3.働き方についての固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正
 4.母子保健医療体制の整備
 5.地域で子どもを育てる教育環境の整備
 6.子どもたちがのびのび育つ教育環境の実現
 7.教育に伴う経済的負担の軽減
 8.住まいづくりやまちづくりによる子育ての支援
~ここまで引用~厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/syousika/tp0816-3_18.htmlより~

⇒「ん? これ今年からやりますって言ってる少子化対策じゃないの?」と思った人、多いと思います。要するに、子育てしすい環境を作ろうとか、掛け声だけかけておいて全然ちゃんとやってない訳ですね。そらあかんわ

・一応、全くやってない訳ではなく、例えば[育児・介護休業法]というのがある
⇒最長で子供が二歳になるまで、育児休業を取れるようにしろ、という制度。またこれは高齢化社会対策法でもあり、介護が必要な家族がいる場合、一年に最長【九十三日】まで介護休業ができるようにしろ、という法律でもある
・また、[児童手当法]を改正して、子供のいる家庭へ給付するカネを増やしてもいる
⇒1971年制定の法律で、当時は「第三子以降が生まれた場合、その子が五歳未満の間、月額三千円」支給だった。2006年の改正により、「第一子でもいいので子供が生まれた場合、小学校卒業まで月額五千円」に増強されている
・さらには、2009年から、国公立の高等学校の[授業料無償]化も行われている

・ただ、こういった少子化対策は日本の現状を反映していないという批判も多い
・日本の場合、「結婚した後子作りする」率自体は、全然下がっていない
・単純に結婚する率が減った、結婚するとしても晩婚化したから出生率が減っている
⇒人間の身体の物理的な問題で、例えば二十歳で結婚した場合と三十歳で結婚した場合だと、産める人数に差が出る。ただでさえ結婚する人が減った上に、結婚する年齢も上がってしまった為に、出生率が減っている

・となると、「結婚した後子育てが楽になるよ」としても仕方ないとも言える
⇒勿論、「結婚して子供作ったら死ぬからやめとこ」がなくなるという効果もあるので効果ゼロとは言わないが、結婚しやすい(結婚したくなる)社会にするか、結婚しなくても子供産める社会にするか…という視点からやった方がいい、という話ではある。そして、こういう視点から行われた少子化対策というのは極めて少ない

○高齢化

・合計特殊出生率が低いというのは、つまり、若い世代の数が少ないという話になる
・若い世代の数が少なければ、老人世代の数は増える。つまり高齢化社会になる

・実は、単純に「老人が多い」という一般的な意味の「高齢化社会」とは別に、厳密な定義もある
・総人口に占める[六十五歳]以上の割合が【7%】以上であれば、【高齢化社会】
・総人口に占める[六十五歳]以上の割合が【14%】以上であれば、【高齢社会】
・総人口に占める[六十五歳]以上の割合が【21%】以上であれば、【超高齢社会】
⇒日本の場合、高齢化社会になったのが1970年、高齢社会になったのが1994年、超高齢社会になったのが2007年。少子化対策をほっぽらかしてた為、事態は急速に進行している。今や世界【一】位の高齢率である

・社会の高齢化は、当然様々な問題を発生させる
⇒それこそ、全人口の20%が働かない(働けない)、どころかその多くが介護を必要とする…となったら、普通は問題が起きて当然

・この高齢化、実は日本だけの問題ではなく、様々な国で問題になっている
・東アジアで見ると、大韓民国や中華人民共和国では深刻な問題になっている
⇒大韓民国は、高齢率こそ日本ほど酷くないが、今や合計特殊出生率が日本より【低く、1前後】である。一方、中華人民共和国は、今はまだ、高齢率も合計特殊出生率も【日本ほど酷くない】。しかし、かつて[一人っ子政策](1夫婦あたり子供は1人までとする、という政策。つまり強制的な合計特殊出生率1化政策)をやっていた影響で、やがて日本を越えるレベルでヤバい事態が来る事は確定している

・勿論東アジアに限らず、非常に多くの国で、高齢化は進行している
・G7と言われる先進国はもちろん、インドやインドネシアも「ヤバい」と言われている
⇒参考:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_1_2.html(内閣府)
・かつて、二十一世紀の問題は【人口爆発】だと言われていたが、実際には高齢化が問題になりそうである

●老人福祉問題

・出生率が下がった結果人口が減る、という事態に付随して起こるのは高齢化である
・そして、高齢化した社会に於いては、どうしても老人をどうするかという問題が出てくる
・つまり、老人に対する社会保障をどうするかという問題である
⇒そして日本では、増え続ける老人に対する社会保障費から、社会保障費は「不要なコスト」「削減すべきコスト」と見做す傾向が強まっている。金融庁は「老後は二千万貯蓄してないときついぜ」とか言い出すし、令和二年の自民党総裁選では「自助共助公助」とか言い出す候補も出るし…

・勿論、社会保障もコストカット一辺倒という訳ではない
・例えば、2000年に【介護保険】制度ができたが、これは明らかにコストカットに逆行するもの
・しかし大きな流れとしては、明らかにコストカットの流れになっている

例:
・1982年の[老人保健法]で、老人医療も自己負担ありになった
⇒1970年代から、老人医療は自己負担なしだった
・2002年の[老人保健法]改正で、老人医療は原則[一割]負担となり、負担が増えた
・2008年には、[後期高齢者]医療制度ができた
⇒老人医療の中でも、七十五歳以上は別枠とした。そして、この歳になっても現役世代並みの収入がある人は、現役世代と同じ自己負担三割、となった

・他には、1989年に策定された【ゴールドプラン】も、ある意味福祉国家からの撤退の流れである
⇒急速に進む社会の高齢化により、老人ホームのような老人医療施設が足りなくなる事が懸念された。そこで、在宅介護を重視し、在宅介護を支援していこうという方針が出たのがこのゴールドプラン。一面に於いて、今までは年老いた国民はちゃんと国が面倒見ますと言っていたのが、「家でやれ」になったとも言える方針転換である

●地域共生社会問題

・既に見たように、現代社会は人道的見地からのみ平等が求められる社会ではない
・功利主義的見地からもまた、平等が求められる社会である

・即ち、高齢者だからというので姥捨て山に捨てるのは「もったいない」のである
・同様に、障害者だからというので一生働けないなんてのは「もったいない」のだ
⇒高齢者だろうが障害者だろうが、どんな人だろうが一人前の労働者として社会へ組み込んでいく。それこそが近代社会の特徴である…みたいな事を、マックス・ヴェーバーも言っている

・これは当然、高齢者や障害者を含む多様な人々の雇用を促進する、というだけの話ではない
・多様な人々が、普通に生活できる環境を整えようという話である
・地域共生社会という言葉は、そのような文脈で使われる言葉でもある

○【バリアフリー】

・多様な人々が「普通に」暮らす上で、障壁(バリア)となるものを除去(フリー)しよう、というもの
⇒階段でしか移動できなかった場所に坂(スロープ)を設置する、エレベーターを設置する、といったものはバリアフリーの典型と言える

・バリアフリーは一般に、土木建築関係や交通関係で言われる事が多い

例1:「日本は古い街並みが残ってない分、バリアフリーが進んでいる」と言えば、要は、「車椅子の人や盲目の人が利用しやすい建物や道路、及び公共交通機関が多い」というような意味で使われる
例2:「欧州は古い街並みが残っている分、逆にバリアフリーは全然だよ」と言えば、やはり建物や道路、及び公共交通機関を主な対象として言っている

・他の例としては、いわゆる[バリアフリー]法も、基本的には土木建築関係と交通関係の法律である
⇒そもそもこの法律自体が、「誰でも利用しやすい建物を作りましょう」法と「公共交通機関は誰でも利用しやすいようにしましょう」法を合体して作った法律である

・バリアフリーという言葉自体、元は建築用語だったので当然とも言える
・ただ、令和六年現在、バリアフリーという言葉はより広い意味で使われるようになっている
・例えば平成十四年に政府が出した「障害者基本計画」は、以下のように言っている

3.バリアフリー:
 障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、も
ともと住宅建築用語で登場し、段差等の物理的障壁の除去をいうことが多いが、より広く障害者の
社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられ
る。
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonkeikaku.html

・即ち、多様な人々が生活していく上での障壁を除去するのであれば、何でもバリアフリーなのである

○【ユニバーサルデザイン】

・既に見たように、「社会の中に、既に存在している障壁を除去する」のがバリアフリーと言える
・その逆の発想で共生を実現しよう、というのがユニバーサルデザインであると言えよう
・即ち、ユニバーサルデザインとは、「障壁を作らないようなモノを新しく作ろう」である
・これも、平成十四年の「障害者基本計画」を見るのが分かりやすいだろう

4.ユニバーサルデザイン:
 バリアフリーは、障害によりもたらされるバリア(障壁)に対処するとの考え方であるのに対し、
ユニバーサルデザインはあらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が
利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方。
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonkeikaku.html

・ユニバーサルデザインはバリアフリーと対になる概念であり、また両輪となる概念と言えよう

○【ノーマライゼーション】

・どんな人だろうが、「普通(ノーマル)」に暮らせる社会を目指そう、というもの
⇒「障害者だから」というので排除されない社会が、「正常(ノーマル)」な社会だ、というところから始まった言葉。多様な人々が普通に、ノーマルに暮らせる社会を目指そう、という言葉である

・以前、社会保障の節で見た[障害者雇用促進法]も、この言葉を背景の一つに持つ

○外国人労働者問題

・令和六年現在、ホットになりつつある話題である
・第二次世界大戦終了後の日本社会は、「外国から人を受け入れて労働力にする」は非常に少なかった
・外国人労働者が明らかに増え始めたのは2000年代に入ってからの話である
⇒2000年時点で20万人程度だった外国人労働者は2010年には約65万人、2020年には166万人と急増している

・これに合わせて、【出入国管理法】も改正が続いている
・特に第二次安倍政権期には、次々と新たな在留資格が創設されている

・では、在留資格とは何か?

・まずそもそもの問題として、現代の普通の国家では、理由なく外国人を入国させはしない
・外国人を入国させる時は、原則、「目的は何か」「最大でどれぐらいいるのか」を明らかにさせる
⇒入国査証、いわゆるビザというのがこれ。「私は旅行目的で貴国へ行きます。最大三十日で帰ります」「私は仕事目的で貴国へ行きます。最大半年で帰ります」というようなものを出させる

・そして、外国人がこれに違反すれば当然、不法滞在のような法令違反となる
・法令違反となれば当然、強制送還や国外追放といった措置の対象になる訳である

例1:最大十五日まで滞在可能な観光ビザで日本へ入国した外国人が、一ヶ月過ぎても日本にいる
例2:観光ビザで日本へ入国した外国人が、コンビニでバイトを始めた

・この手の話で問題になりやすいのは、外国人による労働である
・外国人労働者というのは、経営者からすると、奴隷労働に繋げやすいのである
⇒理由は色々ある。そもそも「外国へ稼ぎに出る」という時点で「貧乏な自国から先進国へ」という形な事が多く、そうなると、「自国の人間なら絶対に容認しないような劣悪な環境でも文句も言わず働く」労働者と化しやすい…というのはよく挙げられるところ

・これもあって、外国人が日本で働く場合、つまり就労ビザを取る場合は、厳しい制限があった
・「こういう経歴の人がこういう分野で働く場合だけ、在留資格があります」みたいな制限である
・一部の外国人が一部の範囲の仕事をする場合のみ資格があり、就労ビザが取れるのである

・第二次安倍内閣は、かなり制限されていた在留資格を緩和し、拡大させている
・確認してみよう。以下は、第二次安倍内閣期の出入国管理法改正である  

平成30年改正 (在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」の創設 など)
平成28年改正 (在留資格「介護」の創設、偽装滞在者対策の強化のための罰則・在留資格取消事由の整備 など)
平成26年改正 (在留資格「高度専門職」の創設、船舶観光上陸許可の制度の創設、自動化ゲート利用対象者の拡大、在留資格「技術」と「人文知識・国際業務」の統合、在留資格「投資・経営」から「経営・管理」への変更、PNRに係る規定の整備 など)

https://www.moj.go.jp/isa/policies/bill/kaisei_index.html

・国際政治、国際経済的には明らかな自由主義者だった安倍晋三らしいと言えるだろう

・一方で、このような外国人労働者拡大は、当然ながら様々な問題を生み出した
・西欧や北欧、米国で起きているような問題である
⇒先に挙げたように、「貧乏な自国から先進国へ」という形の外国人労働者は、悪徳経営者による奴隷労働の餌食になりやすい。外国人労働者が増えてくると、悪徳仲介業者が「出稼ぎしたい外国人」を騙してわざと「留学ビザ」で入国させ、労働させて「不法滞在」状態にし、後は好きなだけ奴隷労働させて…みたいな話も増えてくる

・こういった事情から、第二次安倍政権の後は、拡大するような法改正ばかりではなくなった
・以下は、令和に入ってから令和六年現在までの、出入国管理法の改正である

令和6年改正 (マイナンバーカードと在留カード等の一体化、育成就労制度の創設 など)
令和5年改正 (送還停止効の例外規定の創設、罰則付き退去命令制度の創設、収容に代わる監理措置の創設、「補完的保護対象者」認定制度の創設、在留特別許可の申請手続の創設 など)

https://www.moj.go.jp/isa/policies/bill/kaisei_index.html

・無論、現代日本社会は、西欧や北欧に比べれば外国人労働者は非常に少ない
・それでも、過去に比べれば外国人労働者の数は急激に増えている
・これは、現代日本社会にとって大きな変化である事は間違いない
・しかも現在進行形で起きている変化であり、時事問題として、まだまだ注視が必要であろう

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