金融政策と銀行

・景気対策は財政政策と金融政策で行うが、金融政策は、実を言うと(中央)銀行を通して行う
・また、金融機関と言えば、銀行とか証券会社、保険会社である。その中でも金融の主役と言えば銀行
・という事で、本節では銀行について詳しく見ていく

●日本銀行

○概説

・普通の国ならどの国でも【中央銀行】を持つが、その日本版が【日本銀行】。通称日銀
⇒アイスランド共和国ならアイスランド中央銀行、アイルランド共和国ならアイルランド中央銀行
・[日本銀行法]に基づいて設置される認可法人である
・この法律により、資本金は一億円、政府の出資額は五十五パーセント、というのも決まっている

・公企業の一種なので、政府による影響というのは当然あり、かつては[大蔵省]の監督下にあった
・ただ、日本銀行法が1997年に改正され、だいぶ独立性が強くなった
※この後も大蔵省は権限を色々剥奪され、2001年に【財務省】となる。それでも、今尚予算案の作成と税制度を一手に担う、極めて強力な権力を持つ省庁である。別に政治家が予算案を作ってもいいのだが、その技能を持つ政治家がいない為に予算案は財務省が作っているのだ

・日本銀行は、中央銀行だけあって特殊な銀行である
・例えば日本銀行は、個人や企業とは【取引しない】
・日本銀行の役割は、以下の三つであるとよく言われる
1:【唯一の発券銀行】
2:【銀行の銀行】
3:【政府の銀行】

1:【唯一の発券銀行】
・そのまんま。国内で唯一、[紙幣(日本銀行券)]を発行できる
※あくまで「発券」。硬貨については政府が発行している
・日本銀行券をどれぐらい発券するかについては、[日銀政策委員会]で決定している

2:【銀行の銀行】
・市中銀行(普通の銀行。三菱UFJ銀行とかみずほ銀行とか)と取引する
・具体的には、市中銀行の預金口座を開設している
⇒普通の企業同士の取引なら、「例の材料、五百万円分買いたいんだけど」「いいっすよー。じゃあうちのみずほ銀行の口座に振り込んでおいてください」みたいな感じでいいが、銀行と銀行が取引するとなった時、じゃあどの口座使うの? となる。そういう時は、各銀行が日銀に作ってる口座を使う
・他にも色々取引している。破綻しそうな市中銀行に「最後の貸し手」として融資を行う事もある

3:【政府の銀行】
・日本銀行は、日本国の預金口座を持っている
・他にも、政府のカネの管理事務、国債発行の事務手続き等を行っている

○日本銀行の金融政策のやり方

・以前から、不況(デフレ)の時は通貨供給量を増やすのも効果がある、みたいな話をしてきた
・では、こういう政策は具体的に何処がやっているのか? と言うと基本的に日本銀行がやっている
・日銀がやる金融政策は、主に【公定歩合】操作、【公開市場】操作、【支払準備率】操作の三種類

1:公定歩合操作
・『通貨とは何か』で見たように、銀行がカネを貸すと、その時点で通貨流通量が増える
・つまり、銀行からカネを借りやすくなると、通貨流通量は増える。借りにくいと、減る
・そこで、市中銀行の金利を操作してやろう、というのがコレ

・銀行でカネを借りて返す時、普通は少し多めに返さなければいけない
例:100万円借りて、返す時は105万円払う
・じゃあどれぐらい多めに返すか、というのを割合で示したものを【金利】という
・さっきの例で言うと、金利は5%となる
・かつて、この金利は日本銀行が決めていた。これを公定歩合という
⇒より正確に言うと、「世のあらゆる銀行は、日本銀行と同じ金利でカネを貸さないといけない」と決まっていた。だから例えば、日本銀行の金利が5%ならあらゆる銀行の金利も5%…という感じ
・当たり前だが、金利が高いとカネを借りにくい。低いと借りやすい
⇒つまり、日銀が「今はインフレだな。通貨の流通量を減らそう」と思ったら金利を【上げる】。逆に、日銀が「今は不況でデフレだな。通貨の流通量を増やそう」と思ったら金利を【下げる】

・1994年に、「市中銀行は金利を自由に決めてよい」という改革が完了し、公定歩合操作の意義は消失した
・公定歩合はただの「日銀の金利」となり、2006年には[基準割引率および基準貸付利率]へ名称変更した
・一応、日銀は金利の操作を目標としなくなった訳ではない
・1990年代以降は、【無担保コールレート】の操作をしようとしてはいる
・ただ、これの操作も、公定歩合操作ではなく次に紹介する公開市場操作で行われている
※無担保コールレートとは、金融機関同士の取引で「ごめんちょっと今日手元の資金が尽きちゃった。明日返すから担保なしで貸して?」という時に適用される金利。担保というのは、借金が返せなかった時に没収されるもの。ちなみに、これをほぼゼロにしようとするのが、いわゆる【ゼロ金利政策】である。例えば2006年までは【0.1%】にしていた

2:公開市場操作
・【オープン・マーケット・オペレーション】ともいう。大抵は【オペ】と略される
・公定歩合操作が死亡して以来、日銀の金融政策の手段として主力になった
・銀行のような金融機関は普通、国債や社債といった有価証券を持っている
・これらを、日銀が買い上げたり、逆に売りつけたりするのがオペと呼ばれるもの
・日銀が有価証券を買えば(【買いオペ】)、金融機関にはカネが支払われる
⇒市場に流通する通貨が増える。【デフレ】の時にやる
・日銀が有価証券を売れば(【売りオペ】)、金融機関は日銀へカネを払う
⇒市場に流通する通貨が減る。【インフレ】の時にやる

3:支払準備率操作
・【預金準備率】操作ともいう
・だいたいの国には準備金制度というものがあって、現代日本にもある
⇒「各市中銀行が受け入れている預金の内、一定の割合以上の金額を中央銀行に預けなさい」という制度。日本の場合は日銀に預ける。この割合を準備率という

・今はともかくとして、少なくとも昔の銀行は「手元にある資金を貸して、利子で稼ぐ」と考えられていた
・その為、銀行は手元にある資金以上のカネは貸せなかった
⇒準備率を操作して準備金の量を増やしたり減らしたりすれば、銀行のカネの貸しやすさを操作できる
・デフレの時は準備率を【下げる】。銀行の手元のカネが増えて、沢山貸せるようになる
・インフレの時は準備率を【上げる】。銀行の手元のカネが減って、あまり貸せなくなる

・ただ、現代の銀行というのは、手元の資金を貸している訳ではない
・なので、現代の金融政策としては、とても効果的とは言い難い
⇒実際、現代日本は1991年以来、準備率の操作はしていない

金融政策まとめ

公定歩合 公開市場操作 支払準備率
景気がいい時(インフレ)
⇒「物価上昇・貨幣価値下落」「需要過剰・供給過少」
⇒カネが余っている
上げる 売る 上げる
景気が悪い時(デフレ)
⇒「物価下落・貨幣価値上昇」「需要過少・供給過剰」
⇒カネが足りない
下げる 買う 下げる

○金融政策の呼び方

・通貨流通量を増やす事を最終目標とした政策を【金融緩和】という
・通貨流通量を減らす事を最終目標とした政策を【金融引き締め】という

・金融政策の中でも、金利の操作を目的としたものを【質的】という
⇒質的な金融緩和なら、【質的金融緩和】。金利さえ操作してしまえば、銀行からの借りやすさ・借りにくさも操作できるので、結果的に通貨流通量も操作できる、という考え方で行われる

・金融政策の中でも、「具体的にここまで通貨流通量を増やす」を目的としたものを【量的】という
⇒量的な金融緩和なら、【量的金融緩和】

・さて、1991年以降、バブルが崩壊する
・バブル崩壊後、失われた三十年、などと言われる長期の不況が始まる
・この間、日本経済は基本、ずっとデフレ傾向にある
・デフレとはつまり「物価下落・貨幣価値上昇」「需要過少・供給過剰」であり、カネが足りない
・だから金融緩和が必要になる訳である

・しかしながら、どれだけ質的金融緩和をやってもデフレ傾向のままだった
・1990年代後半には、[ゼロ金利]政策で金利がゼロになる勢いで質的金融緩和をやったが、駄目だった
・そこで2001年から、量的金融緩和も導入された。尚それでも駄目だった模様

・そして2013年からは、第二次安倍政権の【アベノミクス】によって空前の規模の金融緩和が行われた
・これは【質的・量的】金融緩和と呼ばれるもので、質も量も見ながら極めて大規模に金融緩和を行った
⇒この金融緩和は、【マネタリーベース】(市場に存在する現金全部+市中銀行の日銀口座全額)を二年でほぼ二倍に増やすほどのものだった。2016年からは金利も[マイナス]にするようになった。いわゆる[マイナス金利政策]である
※これでだいぶ経済はましになったが、デフレ傾向は打破できなかった。まぁそりゃあ、金融緩和でカネを借りやすくなったり、カネの価値が下がったりしたとしても…長引く不況とデフレみたいな状態で、カネを沢山使いたい、借りてでもカネを使いたい、なんて人どれぐらいいるんですか? という。結局、不況・デフレからの脱出は金融政策だけじゃ駄目で、財政政策も一緒にやらないと駄目という話

●市中銀行

○市中銀行の業務

・市中銀行は、普通のいわゆる銀行である。三菱UFJ銀行とかみずほ銀行とか
・この市中銀行も、実は金融という意味では大きな仕事をしている
・まず、市中銀行はどんな業務をしているか? これから見ていこう

・市中銀行の業務は、主に三つある。[預金]業務、[貸出]業務、[為替]業務である

・預金業務
・[受信]業務とも言う
・これはそのまんま、客からカネを預かる業務

・貸出業務
・[授信]業務、[与信]業務とも言う
・これもそのまんま、カネを貸す業務
・ちなみに、銀行から銀行にカネを貸す場合は[コール]ローンと言う
⇒このコールローンの金利がコールレート。日銀は、このコールレートの内特に無担保のコールレートを、金融政策による操作目標のひとつにしている

・為替業務
・為替とは、「現金以外の方法で決済を行う」ものの総称
例:銀行振込、クレジットカード決済、小切手、口座振替(銀行引き落とし)等々
・また、仮に外国のオンライン通販サイトでモノを買ったとする
・その場合、本来ならドルやらユーロやら、その国の通貨を払わないといけない
・じゃあお店でドル札とかユーロ札とかを買って、それを国際郵便で送らないといけないのか?
・そんな事はない。クレジットカードとか使えば、それで決済できる
・こういうのを、外国為替とか言う。国内でやる為替は内国為替

○信用創造

・既に『通貨とは何か』の雑談で見たように、銀行はカネを貸す事で預金通貨を創造できる
・銀行が、カネの貸し借りによってカネを創造する事を、【信用創造】という

~ここから引用~
 例えば、A銀行がB社に一千万円を貸したとする。
 普通の人は、こう考える。「A銀行が持っている一千万円分の通貨を、一時的にB社に渡した」と。
 しかし、考えてみてほしい。今時、一千万貸すと言っても、トランクに紙幣を一千万円詰め込んで渡す、という貸し方はしない。そういう貸し方をするなら間違いなく「A銀行が持っている一千万円分の通貨を、一時的にB社に渡した」となるが、そういう貸し方はまず、しない。B社の預金口座が一千万円増えて、それで終わりである。
 そう、今時「カネを貸す」というのは「預金口座の数字が増える」なのである。
 そして、預金もまた、通貨である(預金通貨)。
 という事は、これは、「A銀行が、B社向けに、一千万円分の通貨を発行した」という風に考えられる筈である。
~ここまで引用~

・この例で言えば、A銀行は一千万円のカネを信用創造した訳である
・この信用創造があるから、現代の銀行は手元にあるカネの量に拘わらず、カネを貸せるのである
・では、仮に銀行が手元にあるカネ…預金を元に貸し借りしている場合は、信用創造は起きないのか?
・実は、この場合でも信用創造は起きる

・例えば、鈴木さんが100万円をA銀行に預金したとする
・市中銀行は、準備金制度により、準備率に応じて預金の一部を日銀に納めねばならない
・仮に準備率が10%だとすると、日銀に10万円渡し、A銀行の手元には90万円が残る事になる
・この90万円を、A銀行は田中さんに貸した
・田中さんは、この90万円を通販で使った。B銀行の、ショップの口座に振り込んだ
・さて、準備率10%なので、B銀行は日銀に9万円渡し、手元に81万円が残った
・B銀行は、この81万円をまた誰かに貸した
・この81万円もまた、何かの支払いに使われ、C銀行の預金口座に突っ込まれた
・そうなるとC銀行は準備金の8.1万円を日銀に払い、残った71.9万円を誰かに貸す事になる
・お分かり頂けただろうか
・鈴木さんが最初に預金したのは100万円だけである。この100万円は消えた訳ではない
・しかし、この100万円を元に、B銀行の預金が90万増えた。また、C銀行の預金も81万円増えた
・銀行を介した貸し借りの中で、カネが増殖している訳である

銀行 預金 準備金 貸したカネ
A銀行 100万 10万 90万
B銀行 90万 9万 81万
C銀行 81万 8.1万 71.9万
合計 1000万 100万 900万

・最終的にどれぐらい増えるのか、というとちゃんと計算式がある
・最初に預けたカネを[本源的預金]と言い、これと準備率を使って計算する
⇒さっきの例で言えば、鈴木さんがA銀行に預けた100万円が本源的預金

・信用創造の計算式:[本源的預金÷準備率-本源的預金]
例:本源的預金を100万、準備率を10%とすると、100万÷0.1-100万=900万
※こういう計算式なので、準備率が【低い】ほど信用創造できる額は大きくなる

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